第45回「ありこのおつかい」
ありこのおつかい
文・石井 桃子
絵・中川 宗弥
福音館書店
やっと先日「幻の朱い実」を読み終えました。長編ということと、これは半生記に近いものかしら、と思いを巡らせながらでなかなか進まなかったのです。
石井さん自身も書き終えるのに8年を費やしたとのこと。その後、を書いて欲しい、と思っていたところへ逝去のニュース。101歳、成すべきことはした一生、ではなかったかと羨ましい気がします。
石井さんのお仕事の中心は絵本や童話の翻訳です。
この欄で取り上げた絵本、バートンの「ちいさいおうち」を始め、ブルーナ「うさこちゃん」やミルン「くまのプーさん」ポター「ピーターラビット」(いずれもシリーズ)等もみな石井さんの訳で、とても数えられません。
創作の絵本は多くはありませんが、きょうの絵本は子どもたちは大好きです。なぜかは後ほど。
《ある日、ありのありこのおかあさんが ありこにいいました》
ありこちゃん、お母さんが森で拾った草の実を、おばあさんに持っていってね。道草をくわずに…。かの有名なおはなしにそっくり。
やはりお母さんとの約束を忘れあっちこっちのろのろ歩いていて、木の根に巻きついた草を引っ張ったことが事件の発端。
引っ張ったのは草ではなくかまきりのきりおの足で、怒ったきりおにペロリ。おなかの中のありこが「ばかぁ!」と言い「だまれ、うるさい!」ときりお。それを聞きつけた動物が次々と呑み込んで…。
それぞれがおなかの中で叫ぶ「ばかぁ!」「とんちき!」「わるものぉ!」に大笑い。この悪い言葉が何度も繰り返されるのですから、子どもたちには痛快この上ないでしょうね。
最後にくまきちのお母さんが「悪いことを言ったのはおまえね」とお尻を叩くたび口から次々飛びだして。
ありこはおばあさんに届け、今度は真っすぐお家に帰りました、とさ。
大きな画面の中の、小さなちいさなありこは、まるで表情が描かれているかのようです。中川さんの水彩画は、いつものように柔らかで情感が伝わってきます。
ピーターラビットを訳した際「きびきびとし、一片のこびもない文章の味わい、リズムを訳し得た自信はとてもない」と言われましたが、ありこ、にはそれがあると感じました。
「横浜市従」第1204号(2008年4月15日)より




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