2013年9月5日(木曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第30山】蟻ヶ峰1979m「有名になり損ねた山」

御巣鷹山と聞けば、40歳代以上の方なら大概は記憶にあるだろう。85年8月、500名以上の犠牲者を出した日航ジャンボ機が墜落したとされた、その山である。

ところが地図を見れば一目瞭然なのだが、墜落地点は当の御巣鷹山からは明らかにずれている。事故直後、墜落地点の情報が迷走し、混乱の中で聞き取り違いが発生。報道機関の間で「墜落現場は御巣鷹山」と広まり全国に流れてしまう。間違いに気付いた時には、全国民的に御巣鷹山の名がインプットされてしまっていて訂正もできない始末に。そこで翌年になって「御巣鷹の尾根」の名称を与えて折り合いをつける。以後は歩道が付き毎年夏には慰霊登山が行われているが、今では御巣鷹山とはアナウンスしていない筈だ。

では、実際の正しい山名はなんであったのか。御巣鷹の尾根が含まれる最も顕著なピーク、それが蟻ヶ峰である。実はこの山、知られているものだけで4つもの名前を持つ。他の3つは「ショナミの頭」「神立山」「高天原山」。2つの山名を持つ山は珍しくはないが、4つともなるとさすがにレコードものだろう。もし山名が正しく報道されていれば、ニッポン人の過半の記憶に残っていたはずで「超有名になり損ねた山」といえようか。

ただ、名前が間違われたのは結果的には良かったのかもしれない。蟻ヶ峰の名はどうにも怪しい。墜落というだけで悲惨の極みなのに、その場所が蟻ヶ峰ではマイナスイメージの連鎖ではないか。もっとも蟻ヶ峰を敬遠して、他の3つの名の内のどれかが採用されていた可能性はあるが。

私が登頂したのは晩秋であった。登山道がないのでヤブを漕ぎつつ稜線を辿る。シャクナゲの混じる静かな山頂で、どことなく厳粛なムードが漂う。事故現場までは僅か1㎞余り。霊感が弱いせいか何も感じなかったのは残念ではあったが。

かような山に登る人など奇特もいいところだろう。が、せめて犠牲者の供養のため山頂で黙祷を捧げたい。さらにはこの稜線を辿ることで当時に思いを馳せることが、事故を風化させないために意義ある事だと思うのである。

◆おすすめコース
三国峠(埼玉・長野県境)-三国山-蟻ヶ峰(往復3時間:上級向け)※正規ルートではないが、短いこともあって地図さえ読めれば問題ない。

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事情を知らなければごく平凡な蟻ヶ峰(中央)(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド ◎国土地理院2万5千分の1地形図「居倉」

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