2013年10月22日(火曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第33山】黒バラ平1900m「地名決定のプロセス」

南アルプスは光岳が一応の南端とされているが、そこから南にも標高は低いながら原始の色濃い膨大な山域が続く。篤志な登山愛好家からは「南アルプス深南部」略して「深南部」と呼ばれ熱烈な支持を得ている。エリアは丹沢の倍以上に及ぶが、山小屋は一切ないし整備された登山道もごく一部のみだ。良くても踏み跡程度で、時にヤブを漕ぎ、飲み水も限られた所から嗅覚を利かして採取するしかない。その分自然の度合いは濃密で、原生林の深さ・広大さには驚かされる。

深南部の自然の特徴として森一色の中に突如として出現する広場、すなわち樹が生えず笹や萱の草原が広がる山上台地が、随所に広がっていることが挙げられる。森に開けたオアシスのような存在で、青く伸びやかな景観は山上の楽園と呼ぶにふさわしい。

数ある楽園の中でピカイチはどこかと問われれば、ためらうことなく黒バラ平を挙げる。単なる原ではない。うねりを伴いながら丘や窪地が連続して続き、小さな池やモミジの巨樹が点在して、紅葉シーズンともなれば一流庭園もかくやと言うばかりの絶景を展開する。小屋などはないからテント泊しかないのだが、張ってしまえば人工物のテントすらしっくりと風景になじんでしまうのだ。周囲に人の気配がないことも相まって、この地で過ごす一夜は楽園を独り占めにできる快感に浸れる。ニッポン中の名峰を極めた人でも、ここでは新鮮な感動を味わえるに違いない。

さて、怪しげな名前のことである。かつては無名だったのだが、十数年前に誰かが呼び始め、次第に登山者の間に広まって、今では山岳雑誌等でも「黒バラ平」として紹介されている。命名の根拠は、平の両端にある二峰、「黒法師岳」と「バラ谷の頭」の頭文字を取っただけの話。国分寺と立川の中間都市を国立と名付けたのと同じ発想だ。「勝手に名前を付けるな!」と拒否している人もいるが、往々名前の付き方など些細なことがきっかけとなっていることが多い。やがては公認され、国土地理院の地形図にも「黒バラ平」と記される日が来るかもしれない。地名の誕生から定着に至る社会現象を観察できる格好の実験台ともいえるだろう。

おすすめコース
野鳥の森(浜松市天竜区水窪町)―麻生山―黒バラ平(7時間:上級向け)※地図が完璧に読めれば危険はない。

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黒バラ平、笹と樹木のコラボ(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド ◎国土地理院2万5千分の1地形図「水窪湖」「寸又峡温泉」

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