第49回「おつきさんの き」
先日、演劇「族譜」を観ました。在日朝鮮の人たちへの謂われなき偏見や差別が在るのは承知しています。進んでドキュメンタリー番組や映画も観てきました。
でも「族譜」で改めて朝鮮民族の家系や名前を大切に思う気持ちが解りました。
舞台は韓国。日本が支配していた時代に行われた、創氏改名をめぐる悲劇。
1回目の韓国の旅は15年前。声高に日本語で話すのは憚られた頃でした。「族譜」で描かれた歴史を理解していたら、もっと深い交流ができたのではなかったかしら。
正しいこと、健やかな心、潔さ、思いやりが、どんどん、それこそ急速に失われていく日本。誇りをなくした日本人…。
いつも肩に力が入ってしまう自分に気付く時、救ってくれる妙薬のひとつが、長しんたさんの絵本です。
以前、いつか長さんの本を紹介します、と書きました。でも膨大な数(たぶん絵本作家の中でトップ)の中から一冊、となるとウーン。で今まで手がつかなかった次第です。
拘わったのは長さんが絵を担当する本ではなく、「まるごと 長さんの本」です。
「なんだか分からない」が長さんの絵本。意味を求めるのはナンセンス、と言っているようです。
「にゅーするする」は無気味な一冊。2歳児クラスで読んだら“怖いもの見たさ”で、出番の多い本でした。
きょうの「おつきさんのき」も、ストーリーらしい筋はありません。
《いっぽんの きが、ポツンと たっていました》
遠景に山並、野原に1本の樹。樹の下に靴が置かれている場面にはひとこと、(樹が)どこかへ出掛けるのかな、とあります。
魚の形に姿を変えてゆらゆら泳いだり、山まで伸びていってタヌキと話したり。逆立ちしたり、これは健康のためなんですって。
最後は、お月さんが降りてきて、樹を連れて飛び去っていってしまうのです。
《また どこかに うえるのかな》
ここで、この樹はお月さんが植えたことが判ります。
長さんのニックネームは「オドロイタ・ビックリスキー」とエッセイにあります。何にでも驚くからだそうですが、長さんの絵本はどれも、こちらがビックリです。そして、いつしか心がほぐれてしまうのです。
「横浜市従」第1208号(2008年6月15日)より




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