2014年8月8日(金曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第51山】北アルプス(2) 「世界に冠たる魅力」

夏の北アルプスの景観は独特である。様々な色のパーツが多様に組み合わさって、稜線一帯を覆い尽くす。植生の緑系色、岩の灰色や黒、純白の雪渓、まるでキルト生地のように山全体を染め上げるのである。この光景を、北アルプスに遊ぶ人の大半は当たり前のこととして眺めている。が、これこそが世界に類を見ない風景なのである。なぜ、このような細密なモザイク模様が生まれたのか。

博物館と言われるほど鉱石の種類の多いのが日本列島の特徴だが、わけても北アルプスはその成立過程から様々な岩石が複雑に混ざり合う、地質の見本市の状況を呈している。さらにそこには適宜火山が噴出し混沌に拍車をかける。かように地質が複雑なのに加え、地形も岩場あり平地ありと箱庭のように多様。そこに前回も述べたような強烈な風が見舞い、膨大な積雪は溶ける時期によって植物の生長に差異をもたらす。かくして地質・地形・気象の3要素が複雑に絡み合い、混みあう所では僅か数m単位で別の植生が成立する。濃緑のハイマツ帯、淡緑色の雪田植物群落、岩の地色に近い風衝地植物群落などきめ細かく分布。それらの総体がパッチワーク模様となって目を楽しませてくれるというわけだ。

こうした北アルプスの魅力は山に入ってこそだろう。山麓からでは華麗なる模様は細かすぎてわかりづらい。同じ山の中同士の距離でこそ鮮やかに見えてくるのである。そんな変化を意識しながら、パッチワークの只中を辿って行けばどんなに楽しいことか。漫然とただ「綺麗ねー」で歩いていたのではわからない山の世界が見えてくるに違いない。北アルプスとはマクロはもちろん、ミクロに見てこその山なのである。

ニッポンの山ではトップクラスの北アルプスといえども、個々の峰単位では世界の巨峰とは比べようもない。槍ヶ岳や剱岳とて、マッターホルンやエベレストに比べたら尾根上の小さな突起にしか過ぎない。が、北アルプスという山脈全体で見てみれば、世界でも類を見ない別格のエリアとなる。ニッポンの世界自然遺産には四か所が選定されているが、本来なら最もふさわしいのは他ならぬ北アルプスだと断言したい。夏冬での豹変ぶり、地形と植生の緻密さ。これこそ世界でオンリーワンの特徴なのである。もっとも当の北アルプスの立場にしてみれば、人の群がる世界遺産などに指定されない方がいいに決まっているが。

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鷲羽岳から槍ヶ岳方面、多様な色彩のモザイク(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド ◎平凡社新書『日本の山と高山植物』小泉武栄著→山の自然の成り立ちを学問的に知るのに最適の書

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