2008年8月1日(金曜日)[ 絵本ひらいてみませんか ]

第52回「せなかをとんとん」

ehon-52

せなかをとんとん
文:最上 一平
絵:長谷川 知子
ポプラ社


 

きょうの絵本を…。
「ご紹介させていただきたいと思います」。NHKのアナウンサーでも、このように言うんですね。「ご紹介します」か「紹介いたします」でしょ?
近頃、率直な語りかけが聞かれなくなった気がします。なぜ「…します」でなく「…したいと思います」になるのかしらね。
いままでは「ら抜き言葉」が耳障りでしたが、最近はこの「思います」に神経が反応してしまいます。
もっと、すーっと心に染み込むような言葉使いができたらなぁ、というのが私自身の願望です。

《その日 しんぺいは、はじめて さかあがりができるようになりました》
ともだちのたつやは、すごいなぁ、と感心します。
だってお父さんに特訓してもらったんだもん、と誇らしく思います。
ちょうど家路につくたつやのお父さんが目に入ります。たつやが呼ぶと、お父さんは振り向いて…。
その時なぜだか、しんぺいの心がスカスカしました。
《そうか、こういうときは よべばよかったんだ》
しんぺいのお父さんは耳が不自由。呼んでも聞こえません。だから話しかける時は背中をトントン、と叩くのがしんぺいの家族の合図です。

お母さんに頼まれた買い物はするし、お父さんとは手話や口語(口の形で読み取る)、筆談で会話ができるので、不便と思ったことが一度もなかったのです。
でも、たつや親子の様子から、いままで感じたことのない、たぶん切ない思い、をしたのでしょう。

お父さんだって、これまで不自由や疎外感を味わったでしょうし、病気さえしなかったら、と悔やんだかもしれません。
私も片方が聞こえにくく、小声や語尾のはっきりしない人との会話が苦手です。
でも話し合うのが億劫な私と違い、しんぺいのお父さんは積極的に人と関わります。

そんなお父さんに「事件」が。道を訊かれて答えようとしたのに…。
《おとうさん、ちゃんとおしえられるよ。なんできかないんだ》と抗議します。
その日、お風呂でお父さんの背中に耳をつけ「しんぺい」って呼ばないか、耳を澄ませるしんぺい。一度でいいから呼んでほしいと思いながら…。

「横浜市従」第1211号(2008年8月1日)より

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