2015年7月9日(木曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第70山】七ツ沼カール 1600m「山巓に輝く七つの宝石」

「カール」と言っても某製菓メーカーの商品名ではない。1万年以上前にたびたび訪れた氷河期に、氷河の浸食作用によってスプーンで削り取られたようになった山肌地形を指していう。山頂の直下など目立つ所に、すっきりとした印象的な痕跡を残しているので、山の見栄えの上で格好のアクセントをなしている。大概は初夏まで残雪に覆われているが、雪が溶けた後は、急峻な所は岩地形そのままで荒々しさを見せる一方、底部に当たる平坦な所はお花畑となることも多く、登山者をもてなしてくれる。

カールが多く見られるのは北アルプスだが、ではニッポンに数あるカールの中で最も変化に富み美しいものは?と問われれば、北海道は日高山脈の七ツ沼カールを挙げたい。カールのサイズとしても大形に属するが、なんといっても地形の複雑さが際立つ。通常はカールの底部は単純に片傾斜をなしているものが殆どだが、ここの底部は広い上に起伏に富む。凹部には水を湛え、長径が30~100m程度の沼々がバランスがよく、どことなくリズミカルに点在しているのである。地図を見ると沼の配置が実に美しく、実際に稜線から眺めてみれば神の造形の妙に感心するだろう。

場所は日高最高峰の幌尻岳のさらに奥に当たる。稜線の一番低い所から雪の残る急斜面を下ってカール底に降り立つ。気持ちいい広場にキャンプを設け沼一帯を散策しよう。どこを歩いても原始の趣が濃厚だ。鬱蒼とした高木帯ではないので、どの沼もひどく明るいイメージがある。周囲は樺類の樹木や灌木の他、草原、お花畑、岩屑などがモザイクの様に広がり、贅沢この上ない逍遥が満喫できるだろう。何泊もしたいと思わせる魅力が、ここには満ち溢れている。

最大の難点はとにかく遠いこと。日高の山奥を起点に、最低3日は見ておきたい。だがこのカールが北アルプスにあったら、確実に踏み荒らされ沼は汚れていただろう。安易には近づけないことが、ここの原始性を守ってきたと言える。山深くに7つのコバルトブルーの瞳を煌めかせる七ツ沼カールは、ニッポンの山岳風景の至宝なのである。

◆おすすめコース
幌尻山荘―幌尻岳―七ツ沼カール(往復11時間:上級向け)※幌尻山荘までは登山口から往復2日。山荘から日帰りもできなくはないが、できれば現地で泊まりたい。なお、沼の水は晩夏以降は涸れてしまうことが多い。

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七ツ沼カールにて。背後の山は戸蔦別岳(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド◎国土地理院2万5千分の1地形図「幌尻岳」

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