2008年8月15日(金曜日)[ メディアを問う ]

ひとりぼっちの仲間をなくせ

関東学院大学教授 丸山 重威

 秋葉原通り魔事件。17人もの人が殺傷された。お気の毒で、言うべき言葉もない。だが同時に、25歳の容疑者も可哀想な青年だ、とつくづく思う。

 子ども時代は優秀。自分勝手だが「自己表現」もできる青年が進学校で挫折した。転職を繰り返し、自動車工場の派遣工へ。機械の部品同様いつでも使い捨て、を見聞きして絶望が膨らみ暴発した。頼りのネットも、救いにはならなかった。取調官に「初めてまともに話を聞いてもらった」と語った孤独…。

 メディアがほとんど書いていないのは、彼が勤めていた関東自動車が、トヨタ系の大工場ということだ。言うまでもなくトヨタは世界に誇る日本自動車産業のメッカ。つまりこの事件は、家族の問題も含め、日本が蓄積した社会体制の中で起きた事件なのだ。

 ベルトコンベアの中の「労働疎外」は鎌田慧氏の『自動車絶望工場』が書いている。1972年当時、「季節工」となって書いたルポは既に古典だ。しかしいま、同じコンベアには多くの「派遣工」がついているのだろう。

 「働き方の多様化」の美名で製造業への派遣労働が解禁されたのは2004年。ときの日本経団連会長はトヨタの奥田碩氏だった。

 「彼は世の中に負けたのではなく自分に負けたのだ」と被害者を救助しようとして重傷を負った運転手さんが語っていた。その通りだ。

 新自由主義の暴走の中で、若者が希望を持てない社会が続いている。だが一方で「人間を使い捨てにするな」と叫ぶ運動も、世界中で着実に広がっている。恐らくその「闘い」以外に道は開けない。

 まず辺りを見回し「ひとりぼっち」の仲間をなくそう。そして、現場の1人ひとりが仲間と連帯し、つながっていくこと。そして「もう一つの世界」への展望を示すこと。 いまこそ、労働運動と青年運動の「出番」である。

「横浜市従」第1212号(2008年8月15日9月1日合併号)より

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