2016年3月25日(金曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第85山】富士山(2)3776m「均衡の破綻を楽しむ」

あるテレビドラマで、箱根の山上でのシーンがあった。背後には雄大な富士山。が、山頂部が尖り気味。「うそだ、箱根から見える富士山じゃない!」などと見破ってしまう人は、テレビ局にとってはハナから想定外なのだろう。

一般に富士山と聞いて思い描くのは、山頂部はスライスカットしたように平坦で、左右等しく裾野を引く、均整のとれたシンメトリーな姿ではないだろうか。ところが富士山と言う山、そう単純ではない。富士山の標高三七七六mは、最高地点・剣ヶ峰のそれであって、同じ山頂部(お鉢と言う)でも低い所とは六〇m程もの差がある。お鉢回りをした方なら、かなりの起伏があることを体験済みだろう。

したがって剣ヶ峰を正面に仰ぐ富士宮(富士山の南西方)から見ると富士山はかなり尖って見える。冒頭の「箱根からの富士山」は、実は「富士宮付近から撮影した富士山」であったわけだ。

他に富士山の均衡を崩しているのが、江戸時代の噴火跡である宝永火口だ。山頂から南東面の下方が巨大な陥没帯となっていて、その端は宝永山を起こしているからかなり目立つ。他にも吉田口五合目の小御岳、須走登山口の小富士、西側の大沢崩れなど、富士均衡美の破綻は数知れない。

むしろそうしたデフォルメこそ粋なのであり、富士山を見て楽しむための重要な要素と言える。ところが思い込みとは恐ろしいもので、左右対称が脳裏に刷り込まれているから、対称性が破綻した写真を見ても気づかない。富士山のステレオタイプに捉われてしまっているのである。

富士山の写真を見た時は、是非「あら捜し」をしてほしい。意外な一面が理解できて、あらためて「単純でない」富士山の美に気付くはずだ。さらには、写真の撮影位置を地図で確認するよう心がけていれば、やがてはシルエットを見ただけで大体どの方位から撮影したものかわかるようになってくる。そして富士登山をする時は、富士のほころびをどう辿るのかを意識してみよう。それでこそ、普通の富士登山では得られない「一味違う富士山」を楽しめること請け合いだ。

◆おすすめコース
富士宮口(六合目の小屋に宿泊)-富士山頂-御殿場口(9時間:中級向け)※高山病にかかりにくい、最も登頂成功率の高いプラン。下山は砂走りが爽快満点!

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丹沢・塔ノ岳からの富士山、左肩の宝永山、右肩の吉田口五合目が均衡を破っている(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド◎昭文社:山と高原地図31「富士山」

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