2017年4月10日(月曜日)[ 登りたいのは山々 ]

【第108山】笈ヶ岳 1841m「由来はザック」

山名の漢字検定なら、書き取りでも読みでも最難度にランクされるかもしれない。「笈」は「おいずる」と読む。何かと言うと、江戸時代以前に経文や生活物資を運んだ木枠製の背負子を指す。時代劇などで山伏や旅の修験僧が背負っている物、と言えばイメージできるだろう。だから現代語に置き換えれば「ザックが岳」と言ったところか。

北陸の一角に位置する、存在感の割にはマイナーな山である。重要な山登りグッズが山名なのだからもっと注目されても良さそうだが。ただし一部の山岳ファンには全国的な知名度がある。かの「日本百名山」に惜しくも漏れた山として有名なのだ。選者の作家:深田久弥が「まだ登っていないので選定できなかった」のである。また石川・富山・岐阜の三県境に位置する。三県境の山は全国に30山ほどだから、ある意味百名山よりも貴重な存在だ。

残念ながら登頂はかなり難しい。山麓から登山道が一切ないので、夏季には猛烈な笹ヤブとなって人を拒む。冬季は名立たる豪雪地帯、雪崩・雪庇崩壊など様々な雪山の魔手が待ち構えている。僅かに春先、笹ヤブを覆い尽くした降雪が締まっている時期のみ、一般の登山者にも門戸を開放してくれる。おそらくはゴールデンウィーク前後に、年間登山者の9割以上が集中しているものと思う。

適期とは申せ、簡単には登れない。林道の奥から入るが、雪解け水で増水した小川を渡り、岩と雪交じりの急峻な尾根を詰め上げ、一山越えた果てにようやく達する。展望は申し分なく、雪を抱く山の群れが果てしなく広がり、とりわけ白山連峰がボリューム堂々として実に見事。

日帰りで一気に登ってしまう人が多いが、テントを背負って、途中にある冬瓜平泊まりを奨めたい。緩やかな起伏に富んだ山地形に、ブナ原生林が広がる山上の楽園だ。雪上だから何処でも自由に闊歩できるのが気持ちいい。樹間には笈ヶ岳もバッチリ望まれる。ことに夕暮れ時は壮絶。細密な枝を存分に広げたブナの大樹越しに、真紅の空が次第に青味を帯び、紫から濃紺へと刻々移り変わっていく様には、ため息しか出ない。山名由来の重荷の労苦が報われる一時である。

◆おすすめコース
中宮橋-冬瓜平-笈ヶ岳-冬瓜平(泊)-山毛欅尾山-白山一里野温泉(14時間:上級向け)※軽装の日帰りで一気に登るのも手だが、3日行程にして冬瓜平で連泊、その中日に登頂するのがベスト。

93-08

冬瓜平で、ブナ巨樹群の夕暮れ空(上の画像をクリックすると大きく表示します)

◆参考地図・ガイド◎昭文社:山と高原地図43「白山」

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