2008年10月15日(水曜日)[ 絵本ひらいてみませんか ]

第56回「おじいさんの旅」

絵本の表紙の写真

おじいさんの旅
作・絵 アレン・セイ
ほるぷ出版


すこし傾いた甲板で、山高帽を押さえて立つ青年がこちらを見ています。少年の面影を残して。背後には大波がうねっています。
この表紙の絵に魅かれて手にしたのが、きょうの一冊です。
そしてこれが昨年の夏取り上げるつもりを先送りした「はるかな湖」の作者と知りました。登場する父子は日本人に見えましたが、翻訳(椎名 誠)が必要なのだと思っていました。
けれど、きょうの作品は作者自身の日本語版です。

本国では、自身の体験を基に絵本をいくつも出版していますので、日本でも早く紹介してほしいと願っています。
祖父が青年時代に「世界を見てこよう」と旅立ち、いま自身も祖父と同じ道を歩んでいる、が、きょうのお話です。
おじいさんが海を渡った時代は、いつなのか記されていませんが、孫の「ぼく」が少年時代にあの戦争が始まったようです。
《三週間も陸が見えなかった。やっとあらわれたのは、まったくあたらしい世界、アメリカだった。》

そして汽車、蒸気船、あるいは歩いて大陸を巡ります。巨大な峡谷や果てしない畑、高いビルや工場街などを目にした旅。様々な人種とも触れ合います。
新しい出会いにワクワクし、故郷を思い出すことなく旅を続けます。
中でも一番気に入ったカリフォルニアに、帰国し結婚後に2人で移住します。
娘が生まれ成長を見ながら、ふと故郷の幼ともだちを思い出します。
《おじいさんは、たまらなくなって家族と故郷にもどった。》

なつかしい景色、友…。でも、サンフランシスコで育った娘は村の生活が合わず、一家は都会に移ります。ところが年老いてみると、今度はカリフォルニアの山や川が忘れられず、戻ろうと決心した時、日本は戦争を始めます。そして…。
移民の国アメリカでの暮らしは、決して楽しいことばかりではなかったでしょうが「一方に戻ると、もう一方が恋しくなる」が主題。

あとがきに「旅をすることはぼくたちを異邦人にする」とあります。私もこういう感覚を味わいたくて旅に出ます。
28枚の絵は丁寧に描かれ、1行か2行の文が添えられているだけですから、まるで一幅の絵画を観るようです。

「横浜市従」第1215号(2008年10月15日)より

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