「住民本意の行財政に」 カジノを問う vol.3

 市長が発表した会見資料「IRの実現に向けて」によれば、IR誘致による市の増収は820億~1200億円になるという。中間値の約1000億円だとしても、2019年度の法人市民税見込額が591億円であることから一見すると大幅な増収となるように思われる。

 しかし、増収効果の中身はカジノ総収入に対する納付金収入、入場料収入、法人市民税、固定資産税、都市計画税であり、その内訳は各事業者の戦略そのものになるため公表できないという。

 固定資産税と都市計画税収入は、建て替えや増築がなければ年々下がり続けるものだ。加えて、米商工会議所は納付金を10%以下に、入場料を無料にするように要求している。つまり開業から数年は会見資料の言う増収の可能性はあるが、市長が市の収入が足りなくなると心配する数十年後の超少子高齢化時代に近づくにつれ、IRから市への納入が著しく低下すると見込まれる。

 一方で、ギャンブル依存症対策や治安維持などに関連する社会的コストが減ることはない。

 海外の例によれば、居住環境悪化に伴う住民の市外流出は必至だ。市の収入の半分を占める個人市民税収入にも負の影響を与えるであろう。

IRは住民自治と相容れない

 IRが住民生活に対して障害となり、存続の是非が問われ、市会で廃止の決定がなされても、30年にも及ぶ実施協定が立ちはだかり、撤退してもらうためにはIR事業者に対して莫大な損害賠償を支払うことになる。

 スペインのマドリードに建設予定だったラスベガス・サンズのIRは、損害が生じた場合に行政が補償するという合意をスペイン政府が拒否したことで計画そのものが中止となった。

 日本でも同じような合意の下に誘致されることは確実であろう。IRに起因する様々な社会問題をコントロールしようと試みた時、行政はIR事業者に「罰金」を「納付」することになるわけである。

くらしに寄り添う公共事業を

 確かに少子高齢化対策と財政の安定的な確保は市政運営の課題である。
 まず、現役世代が周辺自治体へ流出している転出超過の解決が急がれよう。公立を中心とした認可保育園を整備し“保留”児童問題を解決し、全員喫食を基本とする中学校給食の実現と子どもの医療費の完全無償化、さらに高等教育の奨学金の金利を市が負担するなど、子育て世代に選ばれる市政を実現すれば解決する。

 財源をカジノに頼らないことは当然だが、旧来の大型開発と大企業支援中心で時代遅れな市内の公共事業や硬直化した産業構造の転換を図ることが必要である。

 人口減少とともに物流の減少は確実であり、数千億円かけて新たな高速道路や大型港湾を整備しても建設時に発生する一次的な経済波及効果しかない。むしろ保守や管理の莫大な費用は、市の財政を将来にわたり圧迫する。今求められているのは歩道などの生活道路の抜本的な整備やバリアフリー化、認可保育園や特養ホームの増設、住宅や地元商店のリフォーム助成制度を充実させ、それらを地元業者に発注させる顔が見える公共事業である。

中小企業支援こそ有効な処方箋

 また、横浜市内事業所の99・6%が従業員300人以下の中小企業であり、82・7%の雇用を支えているが、今後一層加速するICTやAI化に対応できなければ取引停止や相対的に労働効率が低下し、事業が淘汰されかねない。市内事業所に対して研修などをおこなうとともに、設備を更新するための助成金の拡充、市内の大学や研究機関との連携を強化し、イノベーションを誘発する仕組みの整備が必要である。同時に市内の事業所同士の連携を強め、市内事業所が市外に発注している業務を市内に還流させる。

 様々な理由で失業が生じた場合にも、所得を保障されながら職業訓練を受け、時代が要求する新たな価値を身に着けて労働市場に復帰できるような仕組みも必要である。

 住民目線で抜本的な行財政改革を行えば、市内で安定した雇用と所得、生活の再生産ができ、市の収入の半分を占める個人市民税を今後も確保することができるであろう。

 まるでIRを誘致する理由づくりのために市内経済をわざと衰退させるような市政運営を続けてはならない。