2020年6月5日(金曜日)[ トピックス ]

シリーズ 検証 IR(3)「動機を失うカジノ誘致」

 横浜へのIR誘致において最有力候補と目された米ラスベガス・サンズ(以下、サンズ)が、5月13日に日本進出の断念を表明した。

 そもそも16年のIR推進法の成立は、サンズのアデルソン会長から22億円以上の寄付を受けて誕生したトランプ米大統領の意向を安倍首相が忖度した結果だといわれている。もはや、横浜どころか、日本へのIR誘致の動機が失われた状況である。横浜市当局も含む誘致推進派は当惑していることだろう。

 サンズは撤退表明で「日本におけるIR開発の枠組みでは私たちの目標達成は困難」であり、「現在、マカオとシンガポールで非常に大きな投資プログラムを実行」していると言っている。つまり、コロナ禍の影響でテーブルゲームやスロットマシンに人が密集する「3密」前提のカジノデザインが踏襲できないし、IRの延べ床面積の3%では採算が取れないということであろう。また、マカオとシンガポールのIRが閉鎖状態に追い込まれている現状では、資金がショート寸前で、日本へ投資するような余裕がない。これはサンズだけに立ち現れている問題ではない。IR事業者全てが直面していることだ。

 これまで政府も横浜市もIR誘致を成長戦略の目玉と位置付け、世論の反対を無視した強行突破を続けてきた。もしかするとIR誘致に関して引くに引けない状況だろうか。そうなると、2000億円ともいわれるIR建設の基盤整備費用を負担するだけではなく、1兆円規模ともいわれるIRそのものの建設にも横浜市が補助金を出さざるを得なくなってくる。

◆横浜IRの収入内訳◆

 ところで、これまで横浜市はIR誘致により年間820億~1200億円の新たな収入が得られると主張してきたが、その収入の内訳は各事業者の戦略そのものであり公表できないという無責任な態度を貫いてきた。

 一方で、大阪府・市は「大阪IR基本構想(案)」を発表し、その内訳を公表している。大阪と横浜のIR計画には、大都市部に誘致し来場者の大半を国内居住者と定めていることから共通点が多い。したがって、大阪の計画を逆算していくとIRから横浜市に入る収入の内訳が推測できる。

 ここでは横浜IR全体の売り上げと市の収入は「横浜IRの方向性(素案)」で示された値の中間値を使用し、カジノの売り上げは大阪と同じIR全体の約8割、来場者に占める日本在住者の比率も大阪と同じ73%と仮定しよう。

 すると、IRから横浜市に入る新たな収入1010億円のうち86%の866億円はカジノからの納付金と入場料収入であることがわかる。法人市民税、固定資産税、都市計画税などは、わずか143億円にしかならない。いかに「カジノはIRの3%」と言い繕うとも、IR誘致の実際はカジノ誘致でしかない。

◆地方交付税が不交付に◆

 話は変わるが、現状に加えて270億円以上の新たな収入を得ると、横浜市は地方交付税の不交付団体となる。すると損なわれる収入は少なくとも年間420億円にのぼる。いくらIRが想定どおりの成功を収め年間1010億円の収入を得ようとも、差し引きで考えれば増収は590億円だ。それどころか、ポストコロナの時代に、これまでの「3密」デザインによるIRビジネスは成立しない可能性が高い。そうなると、市には地方交付税不交付分の420億円を超える収入には期待できない。結果、IR誘致によって市の収入が減る。にも関わらず周辺産業の淘汰と失業は発生する。ギャンブル依存症の増加にかかわる重い社会保障費負担ものしかかる。

◆現実を直視した政策を◆

 コロナ禍により国も横浜市も成長産業としてきたインバウンドや外需に頼る経済構造そのものの危険性も明らかとなった。

 昨年の投資家説明会において、横浜市は「全国と比較して、将来の人口減少は緩やか」であり、「市税に占める個人市民税、固定資産税・都市計画税の割合が多い」ことを強みに挙げている。であるならば横浜市の強みを生かすために、むしろIR誘致を諦めるとよい。安心して子どもを産み育てられるように小児医療費助成の拡充や中学校給食を実現し、質の良い雇用環境や持続可能な地域経済のために抜本的な中小企業支援に切り替えていくときである。

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