注目したいポスト・キャピタリズム論(人新世の「資本論」=斎藤幸平〈著〉)

 「SDGsは大衆のアヘンである」との書き出しで挑戦的な活動を続ける若手経済学者、斎藤幸平氏の著作が書店に平積されている。気候変動の解決策としてグリーンニューディールやジオエンジニアリング、コロナ不況脱出のための「現代貨幣理論(MMT)」も資本主義の枠組みを維持し延命に手をかすという視点から「問題の先送り」、いや「時間稼ぎの致命傷」でさえあると告発している。

 「人新世」とは人間活動が地球環境に影響を及ぼすようになった時代であり、気候変動を中心とした環境破壊をこのまま放置すれば人間が生存できなくなる。このことを氏は「資本主義よりも前に地球がなくなる」と強い危機感を表現し、これを阻止するために「脱成長コミュニズム」「ラディカルな潤沢さ」「コモン」などのキーワードを駆使して革命的なコミュニズムへの転換を喝破しているのだ。その際、氏の「発見」は『ゴーダ綱領批判』(1875)や『ザスーリッチ草稿』(1881)などマルクス最晩年の仕事を発掘、肯定的に評価しているのが秀逸な視角だろう。マルクス自身が「特殊研究」の成果として共同体論をあげていることに意味を持たせることになる。

 ポスト・コロナを意識して市場の意味が問い直されている。生活・雇用破壊と同時に進む「史上最高値ダウ3万ドル」、ワクチンや医療が公共財として維持できるか。ポスト・キャピタリズム論の最前線で氏の議論に注目したい。

【神奈川自治労連・髙橋輝雄】