2020年度方針(案) 新型ウイルスの感染爆発で露呈したグローバル資本主義の矛盾

 6月11日、中央執行委員会は「2020年度運動方針(案)」を提案しました。支部代表者会議を経て、7月16日の中央委員会で決定されると、第74回定期大会の議案になります。方針案の「私たちをとりまく情勢と運動の基調」から作成した討議資料を届けます。方針案は、方針を深めさらに豊かなものにする討論を職場組合員の皆さんに呼びかけています。方針案の全文をご覧になりたい組合員は、支部役員へお問い合わせください。

自己責任に頼る経済・社会から脱却しよう

 新型コロナウイルスの感染爆発が招いた世界大恐慌以来と言われる深刻な世界経済危機のもとで、グローバル企業の利潤追求のために様々な規制を緩和し市場原理に委ねようとする新自由主義がもたらした格差と貧困の拡大が、命の格差にさえつながっています。

 国民皆保険制度のない米国では、十分な医療を受けられない貧困層で多数の死者が出ています。イタリアやスペインといった先進国でも「医療崩壊」が起き、公的支出を後退させてきた緊縮政策に大きな批判が広がっています。

 国境を越えて徹底した利潤追求を優先するグローバル資本主義の矛盾と欠陥が露呈するとともに、新型コロナ危機対策として各国とも巨額の財政支出が避けられず、財源負担の在り方、税の集め方と使い方をめぐる世界的な議論は不可避となっています。「これまでと異なる経済・社会の構築」の議論が沸き起こっています。

「資本主義は組織犯罪」のプラカードが読める ニューヨークの抗議行動

 1月に世界経済フォーラムに先立って国際援助団体オックスファムが公表した報告書によれば、2019年に世界の2153人の富裕層が持つ富は世界人口の6割にあたる46億人が持つ富の合計より大きく、世界の富裕層1%が持つ富はその他の69億人(99%)が持つ富の合計の2倍以上です。報告書は、「税率の引き下げと意図的な税逃れによって超富裕層と巨大企業からの徴税が破綻している」ことを指摘しています。

暴利をむさぼる超富裕層

 米国シンクタンク「政策研究所(IPS)」の調査は、3月18日から4月10日の間に米国では2200万人が職を失う一方で資産を増やした、アマゾンCEOのベゾス氏ら「パンデミック・プロフィティアーズ(感染拡大で暴利をむさぼる者)」の存在を指摘し、「増収に応じた緊急課税」や「富裕税増税」などの施策を提言しています。

 国連のグテレス事務総長も「これまでと違う経済をつくらなければならない」「もっと平等で包容力があり持続可能な経済と社会の建設に焦点を当てる必要がある」と述べています。

 安倍政権の2度にわたる消費税増税によって脆弱化した日本経済も、深刻な事態が浮き彫りになっています。

 内閣府が5月18日に発表した1~3月期のGDP(国内総生産)は前期比▲0・9%(年率▲3・4%)となり、その内訳も個人消費▲0・7%、民間設備投資▲0・5%、民間住宅▲4・5%、輸出も▲6・0%と総崩れ状態となっており、19年度の実質GDPは5年ぶりのマイナス成長に転落しました。4~6月期のGDPはさらに深刻な二桁の落ち込みが見込まれています。

 総務省の家計調査でも2人以上世帯の消費支出は、昨年10月の消費税再増税で大幅な落ち込みを示して以降前年同月比マイナスを続け、厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査の3月確報値でも実質賃金は、前年同月比で3か月ぶりにマイナスに転じました。

 帝国データバンクの調査では4月の倒産件数は8か月連続増となり、小売、建設、宿泊・飲食などのサービス業を中心に758件にのぼっています。十分な補償のない「自粛・休業」が事業者を苦境に追い込んでおり、「派遣切り」や「雇い止め」も顕在化して、雇用の危機も深まっています。

悲鳴を上げる低所得世帯

 国民生活の危機的状況が広がるもとで、憲法25条の生存権保障に相応しい制度構築こそが求められています。

 ところが安倍政権は、「特別給付金」の支給や「雇用調整助成金」の拡充など国民世論と野党の追及によって一定の緊急対策には着手したものの、制度改悪へ固執しています。

 昨年12月に「中間報告」を公表した「全世代型社会保障検討会議」は、新型コロナ感染拡大の中でも検討を継続し、「夏の最終報告」に向けて、雇用労働施策と一体に医療保険や医療提供体制、年金、介護などの改悪メニューをまとめようとしています。

 国保では、18年度からの「都道府県化」による「標準保険料率」導入によって、「ペナルティ」を伴う法定外繰り入れの圧縮圧力を強化しており、全国の自治体で保険料・税の引き上げが相次ぎ、加入者の多数を占める低所得世帯から悲鳴が上がっています。

トランプ大統領 危険な「米国第一主義」
安倍首相 税金私物化と兵器「爆買い」

 1月3日、トランプ大統領の指示によって、米軍がイラクのバクダッド空港でイラン革命防衛隊・ソレイマニ司令官を空爆によって殺害した行為は、「米国第一」を標榜し、国連憲章に明確に違反した無法な先制攻撃さえ厭わない米トランプ政権の危険性を鮮明にしました。新型コロナ危機をめぐっても、国際的な協力に背を向けて、WHO(世界保健機関)への拠出金を一方的に停止するとともに、脱退の可能性まで示しています。トランプ政権は、F35ステルス戦闘機の新型核弾頭の搭載可能化も進めており、こうした核戦力の北東アジアへの配備可能を明記した新NPR(核態勢の見直し)によって、日本が米国の核戦略拠点にされかねない危険性も指摘しなければなりません。

 安倍首相は、軍事攻撃に関して「憂慮している」とは述べたものの、トランプ大統領が呼びかけた「有志連合」に事実上応えて、中東地域への派兵を強行しました。さらにトランプ大統領に言われるまま、米国製兵器の「爆買い」を進めています。新型コロナ感染拡大に便乗して、自民党改憲の「緊急事態条項」創設の策動も顕在化しました。しかし、5月3日の憲法記念日にあたってのメディアの世論調査では「改憲論議を急ぐ必要はない」「安倍政権下での改憲反対」が国民の多数の声として示されています。

防衛予算の推移

 安倍政権が「成長戦略の目玉」と位置づけるIRカジノをめぐっても、IR担当の内閣府副大臣を務めていた秋元衆議院議員が収賄容疑で逮捕・起訴され、さらに自民党・岩屋前防衛相や維新の会・下地議員など5人の衆議院議員に資金提供したとの中国企業関係者の供述も報道されました。

 「森友・加計」、「桜を見る会」をめぐる税金私物化疑惑も明らかになり、新型コロナ対策をめぐっては、466億円を投入した布マスクの全世帯配布に対しても手厳しい批判が広がりました。

 韓国では、新型コロナ対策に巨額の財政出動が不可避になっているもとで、約850億円の軍事予算を削減し、国民への支援金支給の財源にあてることを決めています。

 安倍政権は、「緊急事態宣言」を発令し、「外出自粛」や「休業要請」に踏み出しながら、損失補償には及び腰の姿勢に終始しています。

闘いの課題と運動の基調 ①

憲法改悪の策動を許さず、悪政の暴走を阻止し、国民生活を優先した政治の実現を目指す運動を、新自由主義的「構造改革」路線からの脱却・転換、憲法を守り活かす日本社会の展望と結びつけながら前進させます

内部留保の社会的還元
なくせ貧困 働くルールの確立を

 今年の春闘でもトヨタのベアゼロをはじめ大企業は、賃金の抑え込みに終始しました。

 昨年9月に財務省が発表した法人企業統計調査では、大企業の内部留保は449兆円を超えています。

 新型コロナの深刻な影響を受けても雇用と賃金を維持する十分な体力がある大企業に、下請け企業の維持を含めた相応しい社会的役割を求める世論を広げることも重要です。

大企業の内部留保が急伸

 4月から「同一労働同一賃金」を標榜した「パート・有期雇用労働法」などが施行されました。しかし、増大した非正規労働者や「働き方改革」で増加する「フリーランス」に対して、新型コロナ感染拡大による雇い止めや収入途絶など深刻な事態が広がっています。

 経団連がコロナ危機を「働き方を変えていく契機」と主張し、労働法制の規制緩和を狙っていることも警戒しなければなりません。

正社員より非正規雇用が増加

 通常国会で成立した高年齢者雇用安定法等改定法案も60歳代後半の「就業確保措置」として「雇用によらない措置」を設け、労働法規制の枠外の無権利労働を拡大するものです。

 6月1日には、ILOの条約採択を受けて行われた「改定女性活躍等推進法」にもとづき、使用者にパワハラ防止措置を義務付けた「厚労省指針」が施行されています。しかし「指針」は、使用者側の主張を受けて、パワハラの定義や規制範囲を矮小化しており、職場で実効性を高める労働組合の取り組みが求められています。

闘いの課題と運動の基調 ②

大企業の内部留保の社会的還元、内需主導の経済再生の社会的世論を広げながら、公務員賃金・労働条件改悪攻撃を押し返し、全ての労働者の賃金引き上げ、労働法制改悪を許さず、安定した雇用と働くルール確立で格差と貧困の拡大に歯止めをかける運動を前進させます

住民本位の市政を目指し 職場要求実現の立場から共同しよう

自治体ゆがめる スーパーシティ

 地方公務員は、「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」に基づく児童福祉司等の増員を含む若干の人員増となっていますが、これまでの人員削減による公務公共サービスの低下と職場の実態からすれば極めて不十分です。

自治体職員数の推移

 5月27日に「スーパーシティ法」が成立しましたが、個人情報を集める時の本人同意や、自治体が対象地域を選ぶ際にどう住民合意を得るのかなど具体的な手続きが明記されておらず、住民より企業優先の都市になる危険性があります。

 第30次地方制度の答申を受けて改正された地方自治法では「都市内分権」による住民自治の強化の一つとして総合区を設けることができるとしており、「特別自治市」の実現が困難となっているにもかかわらず横浜市は「横浜特別自治市大綱」の制定以降、著名人をゲストに「大都市制度フォーラム」を開催し、構想に固執しています。

 黒岩知事の暴走ぶりも際立っています。医療従事者らを応援するキャンペーン「がんばれ!コロナファイターズ」をはじめ、知事の軽率な行動が批判を浴びています。

 一方で、県民から要望の強い小児医療費助成(医療機関窓口負担軽減制度)の拡充等は、他県に比べ遅れています。

闘いの課題と運動の基調 ③

地方自治破壊の「道州制」・「地方創生」・「自治体戦略2040構想」に反撃し、市民の安全・安心を守る市政の確立をめざして、民営化路線の転換、市民要求実現を求める市民と共同した運動を前進させます

全国で下がる 会計年度任用職員の月例給

 横浜における「会計年度任用職員」制度は、法令や「総務省マニュアル」の制約を乗り越える到達をつくることができました。しかし、全国の自治体で、期末手当支給に伴う月例給の引き下げなどが顕在化しました。

コロナ対策に給与削減

 新型コロナ感染拡大に伴い、人事院勧告も大幅に遅れることが想定され、今年の春闘相場や「自粛」「休業」による否定的影響から見て予断を許さない状況にあります。

 新型コロナ対策に伴う自治体財政の困難を口実に、既に一部で始まっている人事委員会勧告によらない給与削減攻撃が広がる危険性も指摘しなければなりません。

 「特別給付金」をめぐって国民と公務員の分断をねらう論調と、政権の支持回復の思惑をもって検察庁法改定案の問題を公務員定年延長問題への疑問にすり替える公務員バッシングも生じています。

闘いの課題と運動の基調 ④

「一職場一要求実現」運動をはじめ、組合員の生活と権利を守り、働きがいのある働きやすい職場をつくる要求実現の運動を職場から前進させます

日常活動ていねいに職場で見える組合つくろう

 雇用形態を問わず職場過半数労働者を組織する重要性が増しています。
 職場の要求を大切にし、組合員参加の要求闘争を通じて求心力をつくる取り組みは普遍性を持つものです。

 実践を通じて、①執行委員会をきちんと開催していること、②方針や活動が職場に伝わっていること、③職場に依拠して活動が進められていること、④ニュースなどが確実に配布されていることなど、原則的な活動の重要性が示されています。