選択制デリバリー型給食 ハマ弁に続いて生徒から「おかず冷たい」の声

 中学校給食が今年4月から横浜市でも始まっています。これまでの「横浜らしい中学校昼食『ハマ弁』」を学校給食法上の給食に位置付けて提供する「選択制デリバリー型給食」。様々な栄養素の基準値を設けた「学校給食摂取基準」に基づいた栄養バランスが期待できることに加え、実施主体が市になったことで、献立作成や衛生管理が市の責任となったことも、ハマ弁とは大きく異なります。住民の要求に応える事業の開始は歓迎できるものの、課題は積み残されたままです。

左から、4月21日、5月19日、9月16日の中学校給食のメニュー。様々な野菜や魚が使われている様子が窺えるが、食べると冷たい(写真は横浜市中学校給食サイトより)

 課題の一つは、小学校のように「みんなで食べる給食」ではないこと。「選択制」の名の通り、ハマ弁と同様、希望者は事前登録のうえ、事前または当日に申し込みが必要です。

 二つ目は、希望者全員が食べられない状況も生まれ得るということ。供給可能なのは生徒の3割までです。現状では給食を希望する生徒に行き渡らない可能性のある給食。学校給食法に基づき定められている学校給食実施基準の第一条には、学校給食は「当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるもの」と明記されています。横浜市には「努力義務」だと詭弁を弄さずに、行政の果たすべき役割に誠実に向き合ってもらいたい。2021年度に新中学一年生になった約2万6000人のうち、利用登録をしている生徒は1万2815人(3月10日現在)。新一年生の入学前の登録者数だけ見ても約半数の生徒が申し込むかもしれない給食の最大供給が3割というのは、あまりにも無責任ではないでしょうか。

4~7月の喫食率を見てみると、微減しているものの、当初市が掲げた想定喫食率20%を超える注文がある

 三つ目は、提供される時間と温度です。2020年12月14日のこども青少年・教育委員会で鯉渕教育長は「配送の関係で、今まで出来上がってから6時間程度で喫食というルールの下にやっておりますが、保健所サイドとの調整の中で、4時間程度となります」と答弁しました。調理終了後から2時間以内に提供という学校給食法の実施基準時間を大幅に上回っていることを改めて認めた格好です。衛生の観点から、19℃に冷却されて運ばれるデリバリー型給食のおかずも、生徒たちから「おかずが冷たくて美味しくない」の声が上がったハマ弁同様です。

 こうした中、山中竹春市長は、9月10日就任後初めての市会で、「中学校給食の全員実施に向けて、取り組みを進め」ると表明しました。9月16日の一般質問には、「成長期の中学生に必要な栄養バランスが整った給食を提供することは市の責務だと考えてい」る、「学校給食法の趣旨にのっとり、栄養バランスのとれた給食を原則として全員が食べることをめざしたい」と答弁しました。

 市の方針は一転、全員喫食の給食をめざして舵を切り始めています。10月13日の市会では、公明党の「現在のデリバリー型給食の5年間の契約は全うすべきと考え」るとの質問に、「(事業者との)契約期間である令和7年(2025年)度末までは現在のデリバリー型給食を継続しつつ、最適な手法を検討する」との考えを鯉渕教育長が示しました。今後、生徒や保護者を対象にアンケートをおこない、最適な方式を検討するとしています。

 市民団体「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」が行ったアンケート(2021年4月~8月実施、回答総数1569件、うち市内在住回答1517 件)では、中学校給食の望ましい形式を問う設問で「全員制」との回答が87・6%を占めました。他方、「選択制」は11・1%にとどまりました。また、自校調理方式をどう思うかとの問いには、91・6%が「希望する」を選択。自由記述欄には中学生本人のものと思われる声がいくつも寄せられています。「小学校の時みたいに、温かいご飯が食べたいです。小学校の給食はおいしかった」(10代、磯子区)、「全員で同じ給食を食べれる方が良い。あたたかい給食を食べたい」(10代、旭区)、「小学校と同じ方法が良いと思う」(10代、戸塚区)、「1 人で食べるのがいや。おいしくない。周りの目が気になる」(10代、保土ケ谷区)、「あたたかいおかずがいい」(10代、青葉区)など、どれも「小学校のような」「温かい」給食を望んでいます。

学校給食の初期、1952年の様子。ユニセフ寄贈の脱脂粉乳、あるいは味噌汁の捕食給食だった。

残菜はるかに少ない自校方式

 ところで、1997年にセンター方式(一部自校)から全校自校調理方式へ切り替える検討を始めた世田谷区。できるところから給食室の建設に着手し、現在は29校のうち17校が自校調理方式です(親子5校、センター7校)。そんな世田谷区の区議会会議録に興味深いやり取りがありました。1992年9月16日の定例会です。区内三か所に設置された給食センター(共同調理場)の課題を質しました。

 「大量調理のために、野菜は前日にカットし、調理するときにはぐにゃぐにゃ。月曜日の分の野菜は土曜日に切ってしまう。冷凍食品をよく使う。コンテナ車で運ぶので、サラダは水が出て、びちゃびちゃ。酢豚はごった煮風の酢豚になるという状況です」と始まった質問は、自校調理方式で給食提供を行う4つの中学校を例に、自校調理の優位性を示しています。

 「自校方式の中学校給食では、スポーツ大会の練習で水分補給が必要だと、給食ですぐ対応するなど、毎日の生徒の状況に合わせています」「トウモロコシの皮むき、そら豆のから取りは、いつも生徒が争ってやってくれる。冷ます時間が間に合わず、見栄えの悪いグラタンができたとき、事前に理由を知らせたら、ほとんど残す生徒がいなかった。後で、味はよかった、せっかくおばさんたちが汗をかきながら焼いてくれたから食べたと、次々にやってきて話してくれた。また、生徒の荒れを、給食を柱にして立て直したなど、豊かな経験が幾らでも出てきます。センター給食と違って、当然残菜もはるかに少ない」