【転載】賃上げを可能にするのは団結と統一行動だ 個人の技能証明ではない

【転載】賃上げを可能にするのは団結と統一行動だ 個人の技能証明ではない

 2020年2月、建設政策研究所は30周年記念事業の一環として海外視察「労使関係と労働協約の歴史・イギリスにおける現状を学ぶ」を企画した。このレポートは、神奈川土建一般労働組合の機関紙「けんせつ神奈川」の2021年1月号に掲載された、神奈川土建の書記次長によるものである。今回、許可を得て転載する。なお、転載にあたり、編集部が全文1705字のうち283字(主に神奈川土建の協約締結運動に関する記述)を割愛し、見出しを追加・変更した。

イギリス建設産業の実態と労使交渉機構の有用性

現場前で宣伝するユナイトの建設産業部門専従役員。職種は大工。後ろでは横断幕を持つ宣伝隊が搬出車両を止めている。

現場で組合を強くする

 ユナイトは、建設産業だけでなく、製造業や公務分野など20以上の産業別部会を持つ一般労働組合で、組合員125万人を組織しています。

 イギリスの建設労働組合の活動の場は建設現場。現場では組合員を増やすオルグが行われ、現場ごとに組織強化運動がすすんでいます。

 組合が主導する現場委員会に現場や安全衛生の改善を求める仲間の声が集まり、それを元請ゼネコンに対し日々現場で団体交渉し、要求を勝ちとっていました。

 現場内には、組合加入の案内チラシが置かれ、組合の存在がクローズアップされています。

現場内の組合掲示板。常駐する役員に現場の問題を伝えるためのポストも設置されている

産業全体を底上げする

 ユナイトとGMB(イギリス内第3位60万人の労働組合)の2組合と、使用者側9団体が労働協約について協議する「建設産業合同労使協議会(CIJC)」という団体交渉機構では、「建設産業合同労使協議会労働協約(CIJC協約)」を2年おきに締結し公開しています。

 CIJC協約には、賃金、交通費、有給休暇、病気休暇、労働時間、退職金制度等が定められています。賃金は6ランク、週の労働時間は39時間、割増賃金は平日1・5倍、土日は2倍です。熟練工の週あたりの賃金は約500ポンド(約7万円)。

 決して高い水準とは言えませんが、産業全体の底上げのために活用されています。

 たとえば使用者側9団体に加盟をしていない使用者、2つの労働組合に加入していない労働者でもそれぞれ個別にこの協約基準を雇用契約に編入することが可能です。使用者は複雑な雇用法制の改正に対応ができ、使用者責務を果たし、中小企業の利益を守ることができるとCIJC側はいいます。

 労働組合側は、CIJC協約に対し、特にロンドン市内の建設技能労働者が満足できる水準にないと、より高い水準の現場個別の労働協約を実現しようと運動しています。

協約で賃金を規制する

 イギリスの労働組合側・使用者側と懇談し、確認したことですが、イギリスでは、「CSCS(建設産業技能証明カード)=賃上げ」とはならないという認識を両者とも持っていました。CSCSは技能証明制度で190万人がカードを持ち、現在は安全衛生のテストを受けた技能者登録のために使われています。

 前段の労働協約上の6ランクの賃金はCSCSで定められるものではなく、労働協約で決められ、20年で2倍以上の賃金上昇となっています。

 日本ではCCUS(建設キャリアアップシステム)の能力評価制度が策定され、職種別の年収目標設定がされようとしています。国交省や一次専門工事業などの業界団体で議論が始まっていますが、その年収目標を実現するために国交省は様々な施策を行うと思われます。

 しかし施策では賃金規制がなく、根本的な賃上げは、産業別の「労働協約」で実現するしかありません。

資本と対等に交渉する

 労働協約実現に向けて労働者供給事業を足掛かりにイギリスのような労使交渉を実現するためには、大手ゼネコンを中心とした使用者側と対等に交渉ができる力量と、大きな組織を組合側が持ち、労働者の権利と平等を勝ち取るために、産業の民主化を全力で進めなければなりません。

労務費にしわ寄せがくる構造

 CCUSだけでは賃金を含めた技能労働者の処遇改善は実現できません。処遇改善を進めるためには労働協約について学び、労務費にしわ寄せがくる建設産業特有の構造を変える必要があります。

 日本建設業連合会(日建連。総合建設業者で構成される業界団体)では労務費を明示した見積書提出が徹底されてきています。しかし、見積書に労務費を明示するだけでは規制はなく、その先には、労働協約による賃金支払い遵守を定めた規制が求められます。

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