2022年度予算案に対する横浜市従業員労働組合の見解

 1月28日、山中市長は2022年度予算案を発表しました。

 予算の構成を見ると、子育て支援を中心とする「暮らしやすく、誰もがWELL-BEING を実現できるまち」を第1に掲げている点からも、前市長との立ち位置の違いは明白です。

 市長選公約に掲げた3つのゼロや中学校給食の全員喫食については、検討を進めるなどにとどまっていますが、市長は任期中の実現を目指すとしていることから、組合としても運動の前進を図っていく必要があります。

 横浜市が憲法と地方自治の本旨にもとづき、どう市民生活の改善や安心・安全の確保、住民福祉の増進につなげていくか組合として各職場からの意見も参考にしながらさらに研究を深めなければなりません。

コロナ対応や一部市民要求に応えながらも、大企業優遇が継続する、公約実現に向け住民自治の発揮が求められる予算

2022年2月 横浜市従業員労働組合中央執行委員会

 1月28日、山中市長は2022年度予算案を発表しました。新型コロナ対策や「子育て支援」、「教育施策」の充実などで一定の施策や予算の拡充を盛り込み部分的に市民要求に応えつつも、引き続き、開発事業として関内・関外地区の再開発や上瀬谷をはじめ米軍施設の跡地利用をはじめとする大規模開発の推進、企業誘致とイノベーションの創出、観光・MICE、各種イベントなどによる「呼び込み型」施策を継続・推進するものとなっています。また、「Zero Carbon Yokohama」の実現に向けた取組や市民サービスの向上や働きやすい環境づくりにつながるデジタル化も、加速させるとしています。

 予算規模は全会計総額3兆8,074億円(前年度比▲2.4%)、一般会計1兆9,749億円(同▲1.6%、実質的な伸び率同+1.0%)を計上し前年度をやや下回りました。

1 2022年度予算の概要

 予算案の特徴は「扶助費」をはじめとする義務的経費が伸び、「行政運営費」や「施設等整備費」は減額、「公債費」や「繰出金」は増額となっています。

 市税収入は、個人市民税は給与所得納税者数の増などにより4,062億円(前年度比+179億円)となり、法人市民税は企業収益の回復基調を受けて税化の影響などにより474億円(同+145億円)とするほか、固定資産税・都市計画税は土地の評価替えによる増や家屋の新増築の増などにより合わせて3,484億円(同+163億円)となっています。市債は、現在検討中の「財政ビジョン」(素案)を踏まえて1,360億円(前年比▲358億円)としています。

 この結果、「横浜方式のプライマリーバランス」が+206億円、「一般会計が対応する借入金残高」は、▲39億円の3兆1,465億となり昨年度末残高(3兆1,504億円)より減少するとしています。一方で一般会計の市債残高は、コロナ対策を除けば減少しているとはいえ、大規模開発事業への巨額の市債発行の継続は、依然として将来負担や市民サービスへのしわ寄せとして危惧されるものと言えます。

 歳出では、施設等整備費は、1,979億円(前年度比▲12.8%、▲290億円、一般会計歳出の10.0%)を計上しています。横浜環状高速道路に219億円、国際コンテナ戦略港湾に276億円、山下ふ頭用地の造成等として24億円など引き続き、大企業の基盤整備型公共事業や大規模開発事業に巨額の予算を投じています。その一方で、老朽化が進行している公共施設の保全・更新への戦略的対応は欠如しているといわざるを得ません。また、企業誘致促進26億円、観光・MICE推進44億円、客船の寄港促進11億円など昨年よりは減少しているものの引き続き「呼び込み型」施策を計上しています。

 くらし・経済対策予算(主に新型コロナ対策)2,041億円のうち中小企業・小規模事業者等への支援(融資)が1,473億円を占めており、新型コロナ禍での制約を余儀なくされている事業者に対する給付や補助、休業補償などの経済対策を充実させ経済を回していくべきです。

 一方、市民向け施策を見ると児童虐待防止や子どもの貧困対策、障害児・者の相談支援の拡充など部分的に市民要求に応えた施策も盛り込まれています。待機児童解消に向けた「保育所整備」は34億円を計上し、1,290人の受け入れ枠増を図りますが、認可保育所の新設は570人、横浜保育室からの認可保育所移行182人(移行による減▲179人)にとどまり昨年から半減しています。また、受け入れ枠増の7割は認可園となっていますが、その多くは園庭が無いなどの問題があり、子どもの発達保障に相応しい保育環境と保育の質が確保されているか検証が必要です。全校実施される中学校でのさくらプログラム(選択制のデリバリー型給食)に45億円を投じますが、想定喫食率は30%にとどまっています。児童虐待対策では児童相談所の新設計画を含む再整備が計画されています。小児医療費助成では一部負担が残ったままとなっています。敬老パス負担増の「答申」を前提にしたIC化に向けたシステム構築と実施の予算が計上されています。特別養護老人ホーム整備は着工数が757床と前年より119床増えるとともに、大規模修繕の際にあわせて行う介護ロボット・ICTの導入支援に2.4億円が増額されています。市民要求の強い国民健康保険料、介護保険料、医療費の減免拡充の抜本的改善はありません。商店街振興策は3億円足らずですが、企業誘致は26億円(前年度比▲1億円)となっています。

 全体的な特徴としては、感染拡大防止と医療提供体制確保に427億円、DXの推進に119億円、Zero Carbon Yokohama の実現に69億円が計上されています。

2 市民の生活意識や要望を市政運営や政策立案に反映した予算案か

 「令和3年度横浜市民意識調査」では、心配ごとや困っていることの上位5項目として、①「自分の病気や健康、老後のこと」51.3%、②「家族の病気や健康、生活上の問題」38.8%、③「景気や生活費のこと」22.2%、④「仕事や職場のこと」15.1%、⑤「子どもの保育や教育のこと」11.7%となっており、「自分の病気や健康、老後のこと」が昨年から2.4ポイント減少するも引き続き5割を超えています。

 また、「市政への要望」では、①「地震などの災害対策」31.7%、②「病院や救急医療など地域医療」30.4%、③「高齢者福祉」28.8%、④「防犯対策」27.4%、⑤「地球温暖化への対策」23.9%等が多く、さらに「高齢者や障がい者が移動しやすい街づくり(駅舎へのエレベーター設置など)」「通勤・通学・買い物道路や歩道の整備」「バス・地下鉄などの便」「最寄り駅周辺の整備」などが上位にあります。一方、「身近な住民窓口サービス」が20位から9位に順位を上げ、「ごみの不法投棄対策や街の美化」「商店街の振興」は順位を大きく下げています。こうしたことからも、市民は、高齢者福祉や医療、障がい者支援、防災・防犯対策などの施策拡充によって、安心・安全の暮らしを望んでいることが伺えますが、こうした内容は予算案に十分反映されているとは言えず、むしろ横浜環状高速道路や国際コンテナ戦略港湾などの大規模開発事業に大きく予算が向けられています。「市政への要望」では、「高速道路整備」34位、「都心部整備」40位、「港湾機能」42位、「観光・コンベンション」43位(最下位)であり、多くの市民の要望に合致していない予算案と言わざるを得ません。

3 職員定数は増だが、職場要求に応えず、非正規・不安定雇用労働者を拡大

 厳しい財政状況のもと、市民の信頼に応えながら必要な施策を推進するため、スクラップ・アンド・ビルドを基本とした見直しにより効率的・効果的な執行体制を構築するとして、条例定数では8年連続の増となる215名の増となっています。しかし、公営企業と教職員を除く市長部局等では18名の減となっています。国の法制度改正や配置基準への対応に伴う74名の増は要求に基づく成果ですが、度重なる減員によって疲弊した職場の業務改善やサービス拡充のための正規職員増の要求に十分応えたものとは言えません。依然として非正規職員による代替えが進んでいると言えます。前林市政がはじまった2010年度以降を見ても会計年度任用職員は+1,105名となっており、新規事業を含む業務量の増大に対して、非正規職員の増で対応していることが見て取れます。今年度はIRや劇場の事業廃止、オリパラの終了による減員の影響が大きく現れました。業務量の減による見直しが減る一方、民営化・民間委託化等による対応が多くを占め、こうしたことは業務の担い手を非正規労働者や業務委託による不安定雇用の民間労働者に置き換え、「官製ワーキングプア」を生み出し、本来自治体がなすべき公的責任を放棄し、わずかな経費削減と引き換えに業務蓄積や業務継承ができない職場をつくり、安定した雇用対策にも逆行するものです。

4 「持続可能な行政運営の推進」としての経費削減は昨年より減少

 毎年、「厳しい財政状況」を強調し、市役所内部経費削減の他、事務事業の効率化や業務の民営化・委託化、外郭団体への財政支援の見直し等を強めています。2022年度予算案でも市役所内部経費13億円、市立保育園の民間移管(4園/累計63園)、市立保育所給食調理業務民間委託(2園/累計25園)の継続や福祉授産所の民営化(2か所)、事業の見直し等の内容が並んでいます。合理的な事務経費の見直し等は進めるべきものですが、経費削減を目的とした市民負担の押し付けや事業の民間化・見直しが市民生活に否定的影響を与えていないか十分な検証が必要です。

5 市民要望を実現し、真の経済活性化・市民のいのちと暮らしを守る予算に

 2022年度予算案は、「オミクロン株の感染拡大による第6波を乗り越えるため、全力で感染症対策を進め、いかなる時も377 万人の市民の皆様の命と暮らしを守る」とし、「感染症対策の強化」と「横浜経済の回復」を最優先に、総力を挙げて取り組むとしています。予算の構成を見ると、昨年と変わり子育て支援を中心とする「暮らしやすく、誰もがWELL-BEING を実現できるまち」を第1に掲げている点からも、前市長との立ち位置の違いは明白です。

 しかし、市長選公約に掲げた3つのゼロや中学校給食の全員喫食については、市会野党会派の抵抗や役所的な前例踏襲も相まって具体的には示されず検討を進めるなどにとどまっていますが、市長は任期中の実現を目指すとしていることから、市従としても運動の前進を図っていく必要があります。

 国政における政策問題とともに、横浜市が憲法と地方自治の本旨にもとづき、どう市民生活の改善や安心・安全の確保、住民福祉の増進につなげる予算にしていくか市従として各職場からの意見も参考にしながらさらに研究を深めなければなりません。

 横浜市従は、組合員が働きがいを持っていきいきと職務を進めていくためにも市民本位の予算編成を求めて市民のみなさんとも共同してこれからも奮闘していきます。