【翻訳】強制労働廃止条約の批准に向けた法改正について

【翻訳】強制労働廃止条約の批准に向けた法改正について

 わが組合の加盟するナショナルセンター・全労連も参加するICTUR(国際労働組合権利センター)は、昨年、国際労働組合権誌(International Union Rights journal)の28巻3・4合併号で「強制労働」を特集した。ICTURのダニエル・ブラックバーン事務局長が著したエディトリアル「強制労働の遺産と現代奴隷制」によれば、ブラック・ライブズ・マター運動から連なる植民地主義や奴隷制度への関心の高まりに、特集の必要を確信するに至ったという。同号では、ストライキを指令した役員に科せられる懲役刑が日本において最近廃止されたことと、強制労働廃止条約への批准の展望について、全労連の秋山正臣事務局次長から聞き、ブラックバーン事務局長が関係する事柄を補足して論文にし、アジアにおけるILO(国際労働機関)基本条約への批准率の低さへの驚きを込めて紹介している。ここでは、わが組合の書記による翻訳を掲載する。

ストライキの指揮者に対する懲役刑は禁じられている

 日本の国会は2021年6月9日、参議院において、ILO(国際労働機関)の1957年の強制労働の廃止に関する条約(第105号)への批准に道を切りひらくための立法措置を定めた法案を賛成多数で可決、成立させた。第105号条約は、ILOの定める基本8条約の一つであり、日本政府が批准してこなかったことから国際的に批判を浴びている。同条約の第1条は全ての批准国に次のことを求めている。

 あらゆる形態の強制労働を廃止し、これを利用しないこと―
(a) 政治的な圧制もしくは教育の手段、または政治的な見解もしくは既存の政治的・社会的もしくは経済的制度に思想的に反対する見解を抱き、もしくは発表することに対する制裁
(b) 経済的発展の目的のために、労働力を動員し利用する方法
(c) 労働規律の手段
(d) ストライキに参加したことに対する制裁

ILO第105号条約とアジア太平洋地域

 ILO第105号条約に批准していない国はILO加盟国のうちわずか11か国であり、その全てがアジア太平洋地域に位置する。具体的には、ブルネイ、中国、日本、ラオス、マーシャル諸島、ミャンマー、パラオ、韓国、東ティモール、トンガ、ツバルである。マレーシアとシンガポールの2か国は、この条約に批准したのちに撤回したが、両国ともアジア太平洋地域のILO加盟国である。朝鮮はILO加盟国ではなく、この地域におけるもう一つの条約未締結国である。一方、アジア太平洋地域の全ての国がこのような態度を取っているわけではなく、オーストラリア(1960年)、ニュージーランド(1968年)、フィリピン(1960年)、インドネシア(1999年)は第105号条約に批准している。ソロモン諸島(2012年)、クック諸島(2015年)、ベトナム(2020年)など、最近になって批准した国もある。これらの国々が条約の枠組みを採用できるのだから、明らかに日本にとってもこれを受け入れるべき機が熟している。2021年、日本と韓国の両政府はこの問題を議論し続けてきた。韓国は今年、第87、98、29号条約(結社の自由、団体交渉、強制労働に関する条約)の批准に向け大きな一歩を踏み出したが、今のところ第105号条約への批准を容認していない。

公務員ストライキへの懲役刑の改正

 日本の国家公務員法(1947年法律第120号)及び地方公務員法(1950年法律第261号)は、政治的権利を制限し、ストライキを禁止していることから、条約の1条a及びdに抵触してきた(国家公務員法98条、地方公務員法37条)。これらの規定に反して労働争議行為をおこなった公務労働者は常に懲戒処分されるが、ILO第105号条約への抵触はこうした制限だけでなく、ストライキを扇動して有罪になった者に3年以下の懲役を科す根拠となる法文が設けられていることによっていた(国家公務員法第110条、地方公務員法第62条・63条)。
 強制労働の廃止に関する条約(第105号)の締結のための関係法律の整備に関する法律(2021年法律第75号)として成立した本法は、これらの罰則を変更するものである。同法には国家公務員法、地方公務員法、郵便法の改正規定があり、公務公共労働者がストライキや政治活動に参加した場合の刑罰を、懲役刑から禁錮刑に変更する。公務労働者に対する刑罰の種類を変更することで、日本の批准に対する障壁をなくすことができる。しかし、刑罰それ自体は存在し続けるのであり、したがって本法は根本的な問題の解決をもたらすものではない。
 国会はILO第105号条約の批准に道を切りひらくために法案を制定し、参議院で賛成多数で可決した。しかしながら、刑罰の種類は変更されたが、ストライキや政治活動を罰する基本的な規定は廃止されていない。公務労働者の地位を利用した政治活動は制限されざるをえないとしても、(個人の自由に属する)勤務時間外の政治活動への参加は処罰の対象にすべきではない。このような活動を罰することは、基本的人権の制限に等しい。罰則そのものが廃止されるべきである。

貿易と投資に対する影響

 本法案が提出された背景には、第105号条約がILOの基本条約であって、187か国中176か国が批准しているだけでなく、国際的な経済活動に影響を及ぼしていることがある。特に、経済連携協定で批准の努力が指摘されていること、ILOの基本条約などが国際的規範として、環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資(ESG投資)で選別に利用されていることなど経済活動の問題が大きい。したがって、公務労働者の労働基本権問題を正面から検討・議論したものでなく、懲役刑を禁錮刑に減じるという小手先の改正にとどまっている。ただ単に、国際的な経済活動の障害となる問題を除去するための法改正と考えざるを得ない。

「必要な作業」は強制労働でないのか?

 一方で、懲役刑と禁錮刑が廃止され、新たに「新自由刑」が設けられる刑法が改正される予定となっている。「新自由刑」は、審議会答申で「必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる」と定義している。第105号条約は、争議行為や政治的行為に対する強制労働を禁止しており、「必要な作業を行わせる」新自由刑が強制労働にあたるとの疑念がある。

むすびに 全国の仲間と闘い続ける

夕刻の霞が関(退庁時間帯)に取り組まれた全労連公務部会のサイレントアクション(11月18日、内閣人事局前)

 このような事柄があるにせよ、強制労働の廃止条約が批准される方向で進んでいることは歓迎すべきことだ。われらは、国会の総意として可能な限り早い段階での批准が行われることを願う。また、ILOの基本8条約で唯一の未批准条約となる雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(第111号)の批准に向け、政府として早期に対応することを求める。
 全労連公務部会・公務労組連絡会とそこに結集する労働組合は、公務労働者の労働基本権回復と生活改善、公務・公共サービス・教育の拡充をめざし、憲法改悪反対、防災・感染症対策の強化などの国民的な課題と結びつけ、諸要求の前進をめざして全国の仲間とともに闘い続けていく。
 日本における労働組合の権利については、いまなお、下記のような重大な懸念事項が存在するからだ。
■公務労働者にはストライキ権がなく、公務労働者がストライキを起こせば、解雇、罰金、3年以下の禁固刑に処される危険性に直面している。
■公務労働者は団体交渉に制約があって労働協約締結権を持たず、「代償措置」を提供する人事院・人事委員会の独立性は疑わしい。
■消防士や刑務官に結社の自由がない(これらの労働者の労働組合権は全面的に封じられている)。


秋山正臣 Masaomi Akiyama
兵庫県労働部雇用保険課、神戸公共職業安定所、尼崎公共職業安定所に勤務し、全労働省労働組合の役員を務める。現在は全労連事務局次長(公務部会事務局長)。共編著書に『公務員の実像―仕事の現場とたたかいと』がある。

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