相談して抵抗と変革を試みる 新自由主義の克服めざす世界の労働者

相談して抵抗と変革を試みる 新自由主義の克服めざす世界の労働者

 パンデミック下で資本主義の危機と限界、方々から「新しい資本主義」が打ち出される。新自由主義を世界の労働組合はどういう風に克服しようとしているのか。横浜市従業員労働組合は1月30日、各級役員の討論集会・学習講座を合同開催し、全労連の事務局次長で国際局長の布施恵輔さんに聞いた。

全労連 布施恵輔さんのオンライン講演

 日本の賃金は1997年を基準とすると、一割程度下がっている状態です。OECDに加盟する「先進工業国」と言われる国では、基本的には増えています。
 有給休暇の取得の状況も、ドイツやフランスは、パンデミックの休業状態のない通常の年は100%取得しているのが当たり前。日本は5割ほどの取得率で、非常に低い現実があります。

 オーストラリアでは、日本で五箇条の御誓文が出る前の1856年、ビクトリア州で初めて8時間労働制が法制化されました。現在、日本では平日にどれだけ残業させても割増賃金は125%ですが、オーストラリアでは最初の2時間が5割増し、その後は2倍になります。日曜日は最初から2倍で計算され、祝祭日は2・5倍となっています。「残業代」(over time pay)をオーストラリア英語では「penalty pay」と言います。ペナルティは誰に対する罰なのか。使用者に対する罰です。労働運動が規制して法律ができてきた国の現状と我々の現状というのはかなり異なっていることが分かると思います。

剥き出しの資本主義

 岸田首相は新自由主義の弊害を乗り越える持続可能な経済社会を「新しい資本主義」と言っています。この新自由主義からの転換と言うときの新自由主義とは何なのか。▼ひとつは賃金を抑え込んでいる。非正規化して、解雇規制をなくして雇用を流動化させ、女性や移民労働者を活用して賃金を抑え込んでいく。▼2つ目に民営化です。アウトソーシングや委託で公的責任を放棄していく。水道の民営化も世界中で起こっています。▼3つ目は、社会保障の改悪です。企業の負担を軽減する。自己責任を強調して公的責任を縮小していく。▼4つ目に、国家による所得再配分機能の否定、いわゆる金持ち優遇税制です。金持ちの所得税や資産課税を下げていく。中間層やそれよりも少し下に位置する収入の人の税率が高い。▼最後は、マネー資本主義、金融です。株主優遇のシステムを作り、金融取引や証券取引で儲けやすい経済社会にしていく。この5つの特徴が新自由主義的な経済政策の柱だと言われています。

 日本の場合は2001年の頃から小泉竹中構造改革によって本格化し、「トリクルダウン」という言葉が今でも使われます。大企業や富裕層を支援するとシャンパンタワーのように下の方にだんだん滴り落ちて、低所得層にも富が広がっていくという考え方です。実際は一滴もこないことが分かってきました。AppleとかWal-Mart、マクドナルド、GAP、Google、コカ・コーラ、モンサントといった1%のグローバル大企業、資本家が儲ける弱肉強食の世界だからこそ労働組合も国際労働基準を使いながら国際連帯でお互いに励ましあう闘いが必要です。

賃金はどう決まるのか

 私たちは労働力を売っています。セーターを買うときには、セーターのお金を支払ってからセーターを着ます。でも資本家・使用者たちは私たちの労働力を買っても、労働させてからお金を払うわけです。

 使用者は労働力を買い叩き、儲けようとします。賃金は労使の力関係で決まります。個別の労使関係、つまり労働者が一人では使用者の方が絶対強いに決まっているからこそ集団的な労働契約=対等の立場をつくるわけです。新自由主義に対抗するには労働組合なのです。ニューヨークの消防はほとんどすべての人が組合員です。米国では警察も組合に入ります。

まえから崖っぷち

 新型コロナで労働の世界はどう変化したのか。最初の頃の分析ですが、4億9500万人分のフルタイム雇用が消滅しています。

 先進国では失業させないで休業させる措置をとった国が非常に多かったので、「フルタイムの雇用に換算するとこれだけ分の雇用が一時的に失われています」という言い方をしています。5億人に近い雇用が消滅していて、2022年の雇用の予測についてもILOは非常に悲観的な数字を述べています。

 格差と貧困も拡大している。新自由主義的経済政策を変えていかなければいけないと国連の機関が述べています。UNDP(国連開発計画)が、「未来は過去のそれとは異なる」というタイトルの報告書を出しました。

 2020年の初め、外交専門誌の『フォーリン・アフェアーズ』は牛が崖っぷちに立っているイラストの表紙で「The Future of Capitalism」という特集をしています。牛はウォールストリートの象徴です。パンデミック直前に米国の金融資本が崖っぷちに立たされているという認識に立っていました。

 『フォーリン・アフェアーズ』にはのちに、コロナ後の資本主義に何が欠けているのか、本当にやばいことになるのではないかという感じのことも書かれています。創刊100年ほどの、世界の外交官はほぼ読んでいる雑誌で資本主義が問われているということです。

パワーは労働者にある

 韓国の民主労総はキャンドル革命でパククネ政権を退陣に追いやったときに、組合員を20万人増やしています。「民主主義は会社の門前で止まる」と言われていましたが、それを今つくり変えています。

 米国でも2018年頃から教員が3万人ぐらいストライキに立ち上がり、学校の条件の改善や自分たちの賃金労働条件の改善に向けて闘っています。去年からアメリカでは【ストの10月=ストライクトーバー】と言われています。去年1年間、約10万人がストライキをしています。ジョンディア社というトラクターの会社、ケロッグ社、病院。ハリウッドの労働者もストライキ予告しました。鉱山の労働者なども。アマゾンやスターバックスでも組合を結成してストライキをする動きが広がりました。ニューヨークのタクシードライバーもストライキに立ち上がっています。

 コロナ禍に労働者がこうして声をあげて、550ぐらいの新しい組合が結成されました。ニューヨークタイムスは技術や記者が別々の組合ですが、去年新しい組合ができて3つの組合になりました。3つの組合が本社前で共通してストライキを闘う環境ができました。

 米国では去年4000万人ぐらいが自主的に退職しています。労働組合の組織率が10%程度なので、労働者として闘う人たちがいるのと同時に大量退職という現象が起こっています。

 米国は近年、労働組合の支持率がこの半世紀ぐらいで最も高いと言われています。国民世論調査をすると68%の人が組合を支持していると回答しています。ストライキで労働組合が見えやすくなっているということです。経営者の給与だけが上がっているという実態に「これはおかしい」という声が広がっています。

 要求が前進しない、希望が持てない状態を、要求が前進して、希望が持てて、現場の組合の力が発揮されて、スキルや経験がより多くの人に共有されている組合活動にする。運動によって労働組合が強く大きくなっていく。当事者である組合員や労働者の持つ資源・知識・スキル・個性・特技などをパワーに変えて変化を起こす。課題を解決したい人たちが、自らの資源を集めて変化を起こし出す、変化をつくり出すパワーをつくるということですね。労働組合の活動の仕方を変えていくということです。

答えは複雑で正しい

 労働組合の活動そのものが新自由主義の対抗軸になるということを最後にもう一度強調しておきたいと思います。

 今、就職活動をしている大学生や高校生に向けて「VUCA」という言葉が使われています。▼変動性=Volatility▼不確実性=Uncertainty▼複雑性=Complexity▼曖昧性=Ambiguityの頭文字を取って組み合わせたものです。

 事態を個人主義的に乗り切る発想、個人の夢を実現するのがキャリアデザインなのだと刷り込まれて社会に出てくるわけです。企業社会の予期的社会化といいますが、学力競争をさせられて、入試があって、椅子取りゲームとしての就活を経て、自己責任意識が強くて企業社会に馴染まなければいけないのだと思い込まされて社会に出てくる人が多いということです。そういう時に、自分を変えることで適応するのではなく、社会や職場を変えることで適応すること、必要な時には抵抗して変革を試みるということ、それが労働組合でできることです。

 一緒に運動してともに声をあげること、学んで議論して仲間と声をあげること、一人の力よりみんなの経験を大事に、仲間を大事にするということです。

単純に見えることを疑え

 欧州労連というヨーロッパの組合が作っている教科書に「ANSWERS」と書かれた図が出てきます。「答え」ですよね。右の方を指している腕は、「simple but wrong」つまり「単純だけど間違った答え」です。左を指しているのは「complex but right」で「複雑だけど正しい答え」です。下に5人の人がいますが、人々はやはり、「simple but wrong」の方向に行きやすいんですよね。ポピュリズムです。わあっと言い立てて、「あいつが悪い」みたいになったとき、「simple but wrong」の方向に人々は行きやすいのです。ですが、労働組合は「complex but right」、関係性をつくって、そこで答えを共に創っていくという態度を重視していきたい。新自由主義の流れに世界の仲間とともに対抗していきましょう。

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