くらしに根ざした市政の確立にむけて職場から 市民との共同の運動と労働組合の建設を力強く前進させていこう 2022年度方針案より(2)

 山中市政はじめての予算編成にあたる2022年度予算は、子育て支援を中心とする「暮らしやすく、誰もがWELL-BEINGを実現できるまち」を第一に掲げている点からも、前市長との立ち位置の違いは明白です。市長選公約に掲げた3つのゼロ(「出産費用ゼロ」、「子どもの医療費ゼロ」、「敬老パス自己負担ゼロ」)や中学校給食の全員喫食については、市会野党会派の抵抗や役所的な前例踏襲も相まって具体的には示されず検討を進めるなどにとどまっていますが、市長は任期中の実現を目指すとしていることから、組合としても運動の前進を図っていく必要があります。

山中市政で「3つのゼロ」と全員喫食の中学校給食実現を


 5月31日、「新たな中期計画の基本的方向」が公表されました。基本的⽅向には、中⻑期的な視点で横浜の未来を描いていくため、2040年頃の横浜のありたい姿に「共にめざす都市像」を掲げるとともに、その実現に向けた10年程度の「9つの戦略」と、戦略を踏まえて4年間で重点的に取り組む「38の政策」が記載されています。12月頃に原案の策定が予定されていることから、分析を進めるとともに予算要求などにつなげていく必要があります。

急を要する公衆衛生の強化

 1月28日に閣議決定された地方財政計画では、新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえて2年間かけて保健所の感染症業務にあたる保健師900人増員の2年目として、450人増を予算計上しました。しかし、抜本的な人員不足は解消できません。感染対策や「住民のいのちと健康」を守る保健所全体の体制拡充が喫緊の課題です。

「自主療養届」の背景に足りない看護師

 黒岩知事は、新型感染症対策の医療体制で「神奈川モデル」を打ち出し、国をリードしたと自負しました。しかし保健所の再編統合等で、防疫体制そのものが脆弱となったことは明らかです。県民から批判が出ている放置型感染症対策「自主療養届」を生んだ背景にある全国最低水準の就業保健師・就業看護師数(人口10万人当たり 2020 年度末で保健師数は47位、看護師数は45 位。令和2年度衛生行政報告例(厚生労働省))をどのように改善するのか。その抜本的な対策は急務です。
 他方で「未病改善実践体験事業」「ロボット開発支援事業」「ロボット実装事業」「再生医療やロボット等にかかる研究・実証事業」などの事業は、効果検証もされないまま「県独自事業」として継続しています。

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資料:『2022国民春闘白書』より(出典元:厚生労働省「医療施設調査」)
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資料:『2022国民春闘白書』より(出典元:厚生労働省健康局健康課地域保健室調べ)

減る賃金 減らない失業
増え続ける内部留保

 厚生労働省が5月9日に発表した毎月勤労統計調査の3月速報値では、実質賃金が2か月連続マイナスとなり、2020年を100とした実質賃金指数も88・8にとどまっています。
 総務省の労働力調査では、3月の完全失業率は2・6%、完全失業者数188万人となっており、依然高止まりが続いています。
 一方、昨年9月に財務省が発表した法人企業統計調査では、全産業(金融業・保険業含まず)の内部留保は484兆円に達し、前年度から9兆円も積み増し、13年連続で最高額を更新し続けています。
 日本経団連は今年の「経労委報告」で「コロナ禍における内部留保の意義」を述べ、「あらゆるリスクを想定して、現金・預金を平時より保有せざるを得ない」と内部留保の正当性を主張しています。

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注:内部留保は資本剰余金、利益剰余金、引当金(流動負債と固定負債)の合計
資料:『2022国民春闘白書』より(出典元:財務省「法人企業統計年報」、単体決算。資本金10億円以上の金融・保険を除く全企業約5000社と、金融・保険を含む約5800社。

最低賃金・定年延長・人事委員会勧告

 最低賃金の引き上げをめぐっては、労働組合の運動と新型コロナ過での非正規労働者の困窮と格差が顕在化するもとで、岸田首相も「2025年度にかけて全国平均1000円を目指す」姿勢を表明しています。さらに不合理な地域間格差に向けた「全国一律制」要求も自民党議連の結成と理解の広がりなどの変化が生まれています。ドイツではエネルギーや食糧価格の高騰を受け最低賃金を12ユーロ(約1683円)に引き上げる法案を可決しました。チリでは最低賃金を14・3%、ロシアも10%引き上げるとしています。先進国で最低クラスの日本の賃金水準を抜本的に改善していくことが求められています。
 人事院・人事委員会勧告は、春闘における賃金引き上げの状況や新型コロナウイルスの感染拡大の否定的影響からも予断を許さない状況にあります。
 総務省は、3月31日、「地方公務員の定年引上げに向けた留意事項について」の通知を発出し、段階的引上げ期間中の計画的な検討・準備を自治体に求めています。自治体が総務省に回答した条例改正予定時期は、都道府県で6月・10団体、9月・29団体、それ以降・8団体、政令指定都市で6月・5団体、9月・10団体、それ以降・5団体、その他市区町村で3月・6団体、6月・131団体、9月・1248団体、それ以降・336団体となっており、9月議会が条例改正の山場です。

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資料:『2022国民春闘白書』より(出典元:全労連)

デジタル化の道具にされるこども家庭庁

 政府は、22年度予算において社会保障費自然増2200億円削減を継続しました。「病床削減の推進」、公費支出の削減をねらいとする「75歳以上の高齢者医療窓口負担2割化」などをすすめています。
 見直しの時期を迎える障害者総合支援法は、2023年秋に改正法案の提出が見込まれ、「介護優先原則」「自助・共助」による給付と利用の抑制の方向が示されています。
 一方で、マイナンバー推進に1・8億円を投入し、医療情報化支援金に735億円を計上し、23年度末までに全医療機関でのマイナンバーカードの保険証利用をめざしています。また、「医療保険の巨大データ」の活用のためのデータベース化をすすめるとしています。
 「こども家庭庁」創設では、子どもを取り巻く様々な課題の要因を「縦割り行政の弊害」に議論をすり替え、加えて政府の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」のもと、「子どもに関連する情報のデータベース化」がすすめられています。対象には生活保護・就学援助の利用状況・給食費・教材費の支払いなどが挙げられています。

失われつつある自治体職員の存在意義

 「自治体DX」「スーパーシティ構想」などが政府主導で強力にすすめられています。
 自治体職員・自治体労働組合として、デジタル技術を「住民福祉の向上」と「職員の労働条件改善」に結びつけることが重要な課題です。一方で、個人情報の漏洩や国民監視社会への危惧、セキュリティの万全性が担保できないなどの危険性や欠陥が内在しています。自治体へのデジタル技術の導入については、住民サービスの向上や職員の労働条件の向上に向けて、労使協議・交渉事項として労使合意のもとで取り扱うべきです。
 岸田首相はデジタルをテコとして新たな規制緩和や人員削減を推進しようとしています。3月末、デジタル臨時行政調査会は当面の運営方針を公表しました。先行して見直す対象として、現場に赴いて人の目で点検することを義務付けている「目視規制」など7項目、約5000件の規制を選定しています。目視規制の代表例は、河川などのインフラ点検や、産業廃棄物処理場の確認、徴税に必要な固定資産の実地調査などを挙げています。

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自治体も民間事業者も、すべての独立した「法人格」を有する組織がネットワークに接続されて、デジタル庁(内閣総理大臣)による管理が強化される。デジタル社会の到来は、統治が権威主義に向かう画期になるかもしれない。図の出所:デジタル庁マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ資料

巨大資本の身勝手で気候危機が深刻化

 巨大資本による身勝手な生産活動により地球の生態系が破壊され、気候危機や新たな感染症発生の危機が深刻化しています。気候変動による脅威と被害は、日本でも、大雨特別警報や「緊急安全確保」の指示が頻繁に出され、洪水・土石流が起こり、多数の死者や行方不明者、大きな被害がもたらされています。
 日本は石炭火力に固執し新増設や輸出を進めており、世界の流れに逆行しています。すでに世界の平均気温は1・1~1・2度上昇しており、全世界のCO²排出を半分近くまで削減できるかどうか、に人類の未来がかかっています。

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気候危機に対する行動の欠如に抗議する「未来のための金曜日」の行進(独ヴィースバーデン)

行き詰まる原発政策

 岸田首相は、政府の中枢に原発推進派を多く起用し、福島第一原子力発電所の事故から11年がたちましたが、放射能汚染水漏れなど、事故収束の目処も立たず、いまだに多くの人々が避難生活を強いられているにもかかわらず、事故を「過去のこと」に葬り去ろうとしています。
 福島第一原発事故を踏まえて2013年に新基準ができて以降、16原発27基の審査申請があり、そのうち西日本に立地する6原発10基が再稼働しています。政府はウクライナ危機を理由に原発再稼働の必要性を強調していますが、現実にはすぐに動かせる原発がこれ以上ないのが現状です。
 高速炉の研究開発や使用済み核燃料の再利用、核のごみの最終処分場建設などの問題でも政府の原子力政策は行き詰まっています。
 5月31日、泊原発運転差し止め裁判で札幌地裁は運転差し止めを認める判決を示しました。判決は、原発の安全性を主張立証する責任が電力会社側にあることを認め、国の審査を待って主張するという北海道電力の主張を排斥しました。

米国の「核の傘」か核兵器禁止条約か

 2021年1月22日に核兵器禁止条約が発効されました。条約批准国は61カ国、署名国は86カ国と前進しています。一方、核保有国とその同盟国、「核の傘」に依存する諸国は条約参加を拒み、抵抗を続けています。
 岸田政権は、米国の「核の傘」に依存し、核抑止力論に固執を続け、条約への署名・批准を拒否し続けています。
 世論調査では国民の7割超が日本政府の条約参加を求めており、条約参加を求める地方議会決議も全自治体の35%の632議会に達しています。

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資料:原水爆禁止2022年世界大会冊子より(原水協作成)