【第235山】空木岳2864メートル(長野県)名前と姿に技あり

 ウツギ。樹高2mほどの低木で、初夏の野や庭先を飾る花で親しまれている。別名である「卯の花」の方が、なじみがあるかもしれない。唱歌「夏は来ぬ」の冒頭でご存じだろう。枝が成長すると髄が抜けて中空になることから「うつの木」と名付けられたもので、漢字で書くと空木となる。

 ウツギの名をそのまま頂いた山が、中央アルプスのナンバーツー、空木岳である。日本百名山でもあり登山人気は高い。まず山姿がいい。殊に、すぐ西隣の東川岳からは、三角錐のピークがキリっと天を突き、完成度の高い整った姿に魅了される。花崗岩の山であるので岩肌が白く、今風のイケメンといったところ。

東川岳から堂々たる空木岳

 楽な山ではない。中央アルプスの主峰である木曾駒ヶ岳から遥々縦走する手もあるが、一般には駒ヶ根郊外から池山尾根をピストンする。下部はひたすら樹林におおわれているが、森林限界を抜けると、実に明るく広やかな世界に放り出される。中でも目を引くのが、花崗岩の様々なオブジェだ。ハイマツ(這い松)の鮮やかなグリーンのカンバスに、白く巨大な石像がニョキニョキと点在している光景は、さながら屋外美術館のよう。作品の質も高い。カピバラ風、人面風、解釈は各自の想像力次第。最大の規模を誇るのが駒石で、宇宙からのメッセージのような存在感には度肝を抜かれるに違いない。

 宿泊先は駒峰ヒュッテ。山頂直下の絶好のロケーションに位置している。数あるニッポンの山小屋の中でも展望は一級品。ビールやコーヒーを片手に、屋外テラスから眺める大パノラマが、至福のひと時を提供してくれる。

 待望の山頂は花崗岩の砕けた白砂に覆われ、岩塔が林立。とにかく明るい。南北に延びる中央アルプスの峰々の展望もいいが、眼下の広大な伊那谷と背後に連なる南アルプスの眺めが素晴らしい。気宇壮大の気分に満たされるだろう。

 最後に、空木の名は人名にいいのではないかと思う。空に木とは、なかなか粋でどことなく哲学的でもある。一見、男の子向けだが、「うつぎ」の響きの良さから女の子にもいいのでは。命名の由来を聞かれたら、山か花か、どちらと答えるだろうか。

◆おすすめコース
菅の台バスセンター─駒峰ヒュッテ(泊)─空木岳─菅の台(13時間:中級向け)
※林道終点までタクシー利用なら3時間近く短縮できる。

◆参考地図・ガイド◎昭文社:山と高原地図41「木曽駒・空木岳」