【第162山】栗駒山 約1,628メートル(宮城県・岩手県・秋田県)山の恵みと災厄と

東北地方は南北のラインに数々の名峰が連なるが、東西南北のほぼ中央:ヘソに位置する火山が栗駒山である。日本百名山ではないが、数多の百名山を上回る数々の山の勲章を持っている。宮城・岩手・秋田の三県境に位置すること、山名がそのまま国定公園名になっていること。一等三角点がある他、花の百名山や新日本百名山にも選定されている。山としての魅力に満ち溢れているわけで「百名山に最も近い山」といってもいい。そんな感興は歩いてみれば、いやが上にも実感できることになる。

 残雪豊富な初夏の光景や、湿原が花で溢れる夏もいいが、何と言っても秋の紅葉が圧巻だ。9月末には早くも山頂付近から色づき始め、赤・オレンジ・黄が融通無碍に入り混じって、壮絶といっていいほどの錦繍のパッチワークに染めあがる。10月に入ったら少し下がいい。栗駒山は湿原の多さ・美しさも特筆ものだ。黄橙色の草紅葉が、周囲で染まる灌木や背後の山を借景にして、絵画的な構図で魅了してくれる。10月も半ばになると紅葉前線も山を下り、今度は山麓の膨大なブナ林が黄葉に染まる。大規模伐採により各地のブナ林が衰退した中で、ここの原生林は健在だ。林中では幹に絡むツタ類の赤が眼中に鮮烈な残像を結び、倒木を覆うキノコが山の恵みの絶頂期を教えてくれる。

 さらに嬉しいことには、下り着いた登山口ではどこでも温泉が待っている。須川温泉、新湯、駒ノ湯、湯浜温泉。ただ、渓流沿いの絶景露天風呂で名高いランプの秘湯:湯ノ倉温泉が、08年の岩手・宮城内陸地震で施設が水没、以降再開がない。この時の地震では駒ノ湯が土石流に襲われ7名の犠牲者を出したことが記憶に残る。震源にごく近かったために全山で土砂崩れが発生、登山道はおろか車道も随所で寸断された。

 なだらかで大らかな稜線の美しいラインや、山麓の湯煙は火山のもたらす恩恵だ。一方、火山とくれば言わずと知れた大災害の立役者。今は穏やかな表情の栗駒山も、いつ暴れだすとも知れない。ニッポンの自然美は災厄と紙一重であることを、この山も如実に示してくれているのである。

◆おすすめコース
 イワカガミ平-栗駒山-須川温泉(4時間:初級向け)※ 山頂付近の景観美に加えてブナ林を堪能したければ湯浜温泉まで下ると良い。

9月末の山頂直下  ( 上の画像をクリックすると大きく表示します )

◆参考地図・ガイド ◎昭文社:山と高原地図6「栗駒・早池峰」