【第198山】生田緑地84メートル 知性・歴史・芸術の山

 川崎を代表する自然エリアと言えば生田緑地だろう。戦前からの都市計画緑地で、雑木林に覆われ広範に里山環境を残している。その中核に位置するのが桝形山だ。

 立派な展望塔からの眺めは、周辺の緑地風景とそれを取り巻く膨大な都市群、そして背景に富士や丹沢の山並みと見事なもの。だがここの真髄は、山麓にかけて展開する様々な施設群にある。各地の古民家を移築して集約した「日本民家園」、現代美術に浸るのなら「岡本太郎美術館」、地理自然全般を勉強できる「宙と緑の科学館」など、今を時めく川崎市の知性と芸術の粋が集まっている。そしてそれら施設を、スロープや階段を頼りに、山を上り下りしながら辿ってゆく楽しみ。

桝形山の山頂広場と展望塔

 最後は、中央部の公園に設置されたD51型蒸気機関車と、往年の急行列車の花形であったスハ43系客車に立ち寄ってみよう。客車に座れば、年配者なら往年の旅気分が蘇ってくるし、若年者ならレトロなムードが新鮮なはず。そして年配者は、客車の端の床下から突き出た金属管と缶箱について、若年者に解説してあげよう。それこそ、文化と技術の伝承というものだろうから。

 さてここまで生田緑地を「山」として扱い、登り巡って知性と芸術、展望も楽しんだ。でも山である以上は、外からその姿を眺めておきたいもの。ところが、おいそれと山容を見せてはくれない。山の低さもさることながら、大都会の真っ只中だけあって、周囲の建物が高過ぎるからだ。近隣マンションの上部階からなら良く眺められそうだが、コネでもないと無理。ならばと、1㎞ほど離れた多摩川の河川敷まで下がってみるが、ビル群の上に辛うじて緑が見えるのみ。

 が、一ヶ所だけ誰でも入れる格好の展望スポットがあった。それは川崎市多摩区役所11階の「レストランたま」。窓が大きくないので大パノラマというわけにはいかないが、緑のうねる丘陵帯が手に取る様に分かる。同区役所のホームページには「生田緑地が見えます」とわざわざ書いてくれているのが嬉しい。川崎市の粋な配慮というべきで、どこかの市役所にもこんな洒落心があればいいのに、と一山岳ファンは思うのである。

◆おすすめコース
 向ヶ丘遊園駅─生田緑地(1~2時間:初級向け)
※緑地散策後に多摩区役所でランチは如何?平日限定プランだが。