【第216山】知床岳1254メートル(北海道)海と山の大原始境

 ニッポンの海沿いエリアで最も原始性の強いのは、知床半島の先端部だろう。人家はおろか道もない。知床で有名な山と言えば羅臼岳だが、さらに半島先端へ20㎞余り、人跡の全くないエリアの真っただ中に、その名もズバリ知床岳がある。もちろんまともな道もなく、ごく一部の秘境山岳マニアしか寄り付かない。一帯は、クマの生息密度なら間違いなく日本一で、文字通り原始の匂いがぷんぷんする核心部なのである。

 まず羅臼側の最奥の集落から海岸沿いに歩きだす。浜に沿い、川を何本か渡り、峠を越えれば、かすかな上り道のあるウナキベツ川河口に出る。川で竿を出せばイワナの北海道版であるオショロコマが釣り堀並に入れ食いだ。潮騒を聞きつつイワナ類が釣れてしまうのはここだけだろう。

 海岸を離れ山に入る。クマに最大限の警戒を払いつつ樹林帯を登っていく。ようやく尾根上に上がると、ほぼ平らな台地が広がっているのが何とも不思議なムードだ。周囲は抜けているから、ひたすら明るい。いくつもの湖沼が点在し、その中で最大の知床沼のほとりが格好のキャンプサイトになる。周辺は見渡す限りのハイマツ(背丈以下の高山松)で海のよう。

知床沼のほとりで、右後方が知床岳

 沼を背後に見下ろしつつ、ハイマツの中を登れば、ようやく知床岳山頂に着く。古い成層火山であり、眼下に爆裂火口の大崩壊壁が連なる。半島だから海が両サイドに見え、北方領土:国後島は目と鼻の先だ。ニッポンの他の山と決定的に違うのは下界すべてに人の痕跡が見えないこと。それゆえか明るい風景でも、どことなく寂寥感=最果てムードが漂うのである。

 さて、知床岳の大きな山体の一角から、オホーツク海に流れる急峻な川がある。河口部は絶壁で、滝となって直接海に落ちる。それがカシュニの滝、つい先日、観光船が遭難した現場ではないか。僅か8㎞しか離れていない知床岳とカシュニの滝は表裏一体、どちらもわが国第一級の原始境だ。ひとたび天候が荒れれば、猛威が容赦なくダイレクトに人間に襲い掛かる。そこに入る以上、相応の覚悟と準備が必要だということは、山も海も同様だと気づかされよう。大自然には謙虚に慎重に。

◆おすすめコース
 相泊─ウナキベツ川─知床沼─知床岳(往復24時間以上:上級向け)
※夏のヤブやクマを嫌い、積雪期に山スキーで入る人の方が多いかもしれない。

◆参考地図・ガイド ◎国土地理院2万5千分の1地形図「知床岳」