ニッポン屈指の山岳観光スポットである黒部ダム。ダム湖に水をもたらすのが黒部川であり、上流部で「?マーク」を逆にした形で屈曲、その屈曲部に取り囲まれた所に標高2500mを超す広大な溶岩台地が展開する。これが雲ノ平で、一般ハイカーが入れる中では、わが国でも最奥に当たるエリアを構成している。
どの登山口からでも2日係りで、ラストに黒部源流を渡って城壁のような急登を詰めると、文字通りの山上の楽園が一気に開ける。ごく緩い起伏が続き、人の腰ほどの高さのハイマツ(地を這うように生育する高山性の松)が一面に広がっているので、終始展望が利く。グリーンのハイマツの海の背後にそびえる黒部源流部の名峰群が堪らない。水晶岳、薬師岳、黒部五郎岳など個性豊かな面々がパノラマをなす。ハイマツの生育しない湿地ゾーンも随所にあり、平場に岩や苔が配され、日本庭園、スイス庭園、ギリシャ庭園などと、ちょっと臭いネーミングだが、それぞれ趣が異なりバラエティーを楽しめる。
一帯で是非とも立ち寄りたいのが中央部で丘状にわだかまる祖母岳だ。山上部は平らでアルプス庭園の名があり、広大な雲ノ平を上から俯瞰できるのがいい。もうひとつ外せないというより、こんな奥地にたどり着くための必須のインフラ、それが祖母岳近隣の山小屋:雲ノ平山荘だ。
まず小屋の建つロケーションがいい。平の中央、何物にも遮られることなく、凛として佇む姿に魅了される。マンサード屋根の洒落た外観が牧舎チックで、周辺の緑や背後の山とあいまってアルプ的景観が決まっている。そして見た目以上に中身が秀逸。築10年ほどでモダン、展望抜群の階上のベランダ、武骨で素朴ながら木の質感を存分に生かしたお洒落な内装、最奥部とは思えない凝った食事、種類豊富なアルコール提供などなど、登山者心をくすぐる設備とサービスの数々で、人気度の非常に高い小屋になっている。
容易には近づけない最奥部にかような別天地が待っていることは、北アルプスの懐の深さ・自然の豊かさの証だ。そこそこ山に親しむ人なら、是非とも最奥の4日間にチャレンジしていただきたい。
◆おすすめコース
折立─太郎平─雲ノ平─双六─新穂高温泉(計23時間:中級向け)
◆参考地図・ガイド:◎昭文社:山と高原地図39「剱・立山」