【第191山】新治市民の森 約70メートル(神奈川県)里山の小宇宙

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 横浜市市民の森といえば皆さんよくご存じのことと思う。軽い山歩きを兼ねてそこそこの歩き応えを求めるとしたらどこか。市内に47カ所ある中で、最大の面積を有するのが緑区に位置する新治市民の森である。面積は67 ha、ちょうど新高島から桜木町に至るみなとみらい地区くらいの広さと思えばよい。が、当地は何本もの尾根と谷戸が複雑に屈曲し、遠方を見通せないせいか、実面積よりも随分と広く感じる。

 十日市場駅から徒歩15分ほど、まずは入口近くの「にいはる里山交流センター」に寄って、マップや里山の知識を仕入れておこう。前述の通り森内は思いのほか広い上、少々ワイルドな園路が縦横にめぐらされているので、隈なく巡って行けば数時間を要しよう。

 里山は田んぼ・畑・山林などで構成され、山の樹から燃料や肥料を得、作物や家の材料にするなど、そのエリアだけでリサイクルの整った循環型社会が構成されている。いわば日本古来の社会の原風景だ。新治市民の森では、多くの手間を掛けつつ、ひとつの里山世界を維持しているのである。そういったことを感じつつ歩いて行けば様々な発見があるはずだ。

 もちろん山もある。やまんめ山、向山、おんばく山など気になる山名はあるが、夫々のエリアの山地形を漠然と指すもので、これといったピークはない。唯一、丸山だけが周辺より際立っていて独立した山頂感があるので、どうしても登頂の実感が欲しい向きには、ここの緩やかなピークを踏んでおくといいだろう。

 散策の締めくくりは、エリア入口に近い旧奥津邸に立ち寄ると良い。豪壮な造りの古民家で、極太の柱、贅を凝らした格子天井、真壁の丁寧な施工など、がっしりした造りと贅沢な木細工が見事に融和している。特筆すべきは新しいこと。通常、古民家と称する家屋は江戸期や明治期に建立した古色蒼然としたものが多い。だが、ここは平成の建築、柱も木もまだまだ新しく、古民家というより「新民家」の感覚がなんとも新鮮で、余計に感動を覚えるのである。広い廊下で寛ぎつつ眺める里山風景はまた格別である。

◆おすすめコース
十日市場駅─にいはる里山交流センター─森内一周─十日市場駅(2~3時間:初級向け)
※何より身近なのを幸い、四季折々に訪れて、里山の変化の様を楽しみたい。

冬の谷戸田の情景