【第197山】赤鞍ヶ岳1299メートル(山梨県) ダブル山名は水の守護神

 山梨県道志村といえば丹沢の背後に位置し、同村の面積の36%を、水源林として横浜市が所有しているのは周知のとおり。針葉樹と広葉樹が混生する「針広混交林」を目指し、入念に手入れがなされている。

 その道志村、類例のない独特のスタイルをしている。コッペパンの中央を縦一直線に切って開いた状態、といえばお分かりいただけようか。切り開きの底部に川が流れ集落が群れ、開いたパンの両側が丹沢山地西部と道志山地。元々この両山地、地質学的には出自が一緒、正にナイフを入れて開かれ相対しているようなものなのだ。

 さて奇妙なことに、道志山地には赤鞍ヶ岳なる山が二つ存在する。距離にして2㎞ほどしか離れていないから、どちらかが赤鞍ヶ岳だったのが、隣の峰にも誤認され世間に広まってしまい、双方引っこみがつかなくなってしまったのでは?またそれぞれに別名があって、西側を朝日山、東側をワラビタタキとも呼ぶ。一方が至極まともなら、もう一方は人を喰ったようなネーミング。となれば両山に登って、きちんと確認したくなるのが山屋の情だ。

 まずは西側の朝日山へ。村役場の裏手が登山口なのはご愛敬。道志の山の特徴で、途中までは普通の登りなのだが、稜線の手前直下でエラく急になる。山頂はカラマツ林に覆われゆったりと広い。道志山地の盟主たるに相応しく、悠揚とした王者の風格が漂う。

 続いてワラビタタキへ。大らかな稜線歩きが続くが、途中にあるウバガ岩からの眺めが最高だ(写真)。切り開いたコッペパンのスタイルが手に取る様に分かり、パンの先端には富士山がバッチリ決まっている。

中央の谷底で二分、左が丹沢、右が道志山地

 ワラビタタキのピークも広やかだが、ヤブが茂り山頂感に乏しい。ムードで朝日山、展望でウバガ岩に遠く及ばない。が、しかし……山頂から僅かに進むと、金網に囲まれたボックスと、通信電柱に行きあたる。これは当地の降水状況を、遥か神奈川県のダムに知らせるためのもの。洪水調節のための防災施設、しっかり働いている山なのである。とまれ道志の山は、水源を提供するばかりか、水害からの防災の役も担う、正にハマの水の守護神のような存在といえるだろう。

◆おすすめコース
 道志村役場─大栗─ワラビタタキ─朝日山─道志村役場(5時間:中級向け)
※稜線直下が急峻なので降雨時や直後は止めておいた方が無難。