【第207山】暑寒別岳1492メートル(北海道) 珍名三重奏の山模様

 北海道は広い上に何事も密度が疎であるので、山の分野でも知られざる大山地がゴロゴロしている。札幌から北へ70㎞程の近郊にある増毛山地もその内のひとつで、標高は1500m未満だが個性ある火山が群れて山塊をなしている。薄毛に悩む人があやかりたいような山地名は、日本海に面した増毛町から来たもの。一連の山地としては実に大きく、東西40㎞、南北80㎞に及ぶ。丹沢山地の優に5倍、神奈川県全体よりも広いくらいだ。

 増毛山地の主峰が暑寒別岳である。暑と寒が同居して別れる、なんだか人を食ったような名称だが、これはアイヌ語の「ショカンペツヌプリ」に当て字したもので、元々は「滝が上方にある川の源にある山」と言った意味だ。山地で唯一、登山道が開かれており、増毛の町から入って山頂を越え内陸側までつながっている。山頂からは、遥か彼方まで自身より高い山がないので展望は一級品、大雪山から利尻山までが見える。

南側から見上げる初夏の暑寒別岳

 次のピーク、南暑寒岳からは前方に湿原が広がっている様が眺め下ろせる。「北海道の尾瀬」とも称される雨竜沼湿原である。この名も印象深いが、こちらは内陸側の下界の地名(雨竜郡、雨竜町など)がルーツだ。さすがに尾瀬ヶ原の広さには及ばないが、林で区切られた尾瀬の一区画分くらいには見える。どこまでも平坦な湿原に延びる木道、無数に展開する池塘群、背後に横たわる南暑寒岳の姿など、尾瀬でお馴染みの道具立てが揃う。凡そニッポン中の高層湿原の中では、最も本家尾瀬に似ているのではないか。違いと言えば、人の少なさ、小屋がないことくらいだろう。中央を流れる川はペンケペタン川。この名もまた粋というものだ。

 増毛、暑寒別、雨竜。珍名の三重奏が奏でる山模様は、北海道らしい大らかさに満ちていながらも、独特の味わいを秘めた、未知の魅力溢れるエリアといえよう。これほどの名峰が日本百名山ではないのだが、選定当時の昭和30年代頃は、このエリアは登山対象としても無名に近かったようだ。だが、百名山にならなかったお蔭で今日なお静寂さを保っている。どちらが良かったのかは、登る人それぞれの感性に任せたい。

◆おすすめコース
 暑寒荘─暑寒別岳─雨竜沼湿原─南暑寒荘(12時間:上級向け)
※山地を抜けるには山上でテント泊が必要だが、湿原か山頂への往復だけなら日帰りが可能(中級向け)。