【第214山】神室連峰1366メートル(秋田県・山形県) みちのくのコンパクトアルプス

 ニッポン最長の山脈は奥羽山地である。東北地方の背骨を成し、青森県から福島県まで延々400km以上に及ぶ。途中何か所も峠道で分断されてはいるが、大局的に見れば一山脈なのだ。その上に東北を代表する火山が連なるが、山地上から噴出したため、言わば下駄履き、大きさの割に高度を稼ぎ、それゆえ見栄えが良くなり名峰が多い。

 一方、東北の非火山でアルプスらしい山としては飯豊山地と朝日連峰があげられるが、どちらも稜線ラインが優しい感じで、いわゆるアルプスのイメージには合わない。アルプスらしさなら、東北中部の神室連峰だろう。個々の峰は小さいのだが、それぞれに個性がある。膨大な積雪に磨かれた急崖がアクセントになって、アルプス的な景観を見せてくれている。

 南北20㎞に渡って登山ルートがあるので、コンパクトなアルプス縦走感覚が満喫できる。山麓はブナ林に覆われているが、稜線上は冬季の豪雪と強風のためか背丈の低い灌木が占め、1100から1300m台の標高にも関わらず終始大展望に恵まれ、森林限界を抜けた高山帯を歩いているかのようだ。この点もアルプスの名に恥じない。

神室連峰、中央が神室山

 コース上、名のある山だけでも7座、その他、細かいピークを数え上げれば20を下らない。主峰は連峰名となった神室山で、山頂直下には立派な無人小屋が建つ。最高峰の小又山は連峰の中枢、どっしりと大きい。一等三角点のある火打岳はツンと尖がり、アルプスらしさではピカ一の存在。かような一癖も二癖もある面々を一山ずつたどっていく楽しさ。しかも、どれも大上りや大下りすることなく、次から次へとピークをこなしていく爽快さ。小ぶりな峰々を、短時間で稼いでいけるのである。この感覚こそ、神室連峰ならではの個性=面白さといっていいだろう。

 これほどの登山的魅力に恵まれた山脈だが、地元以外の知名度は高くない。もしこんな小アルプスが首都圏近郊にあったら、大人気を博したはず。奥羽山地という大いなる体系の一部に組み込まれた山、しかしこんな所に真の名峰が潜んでいることが、東北の山の、懐の深さなのである。

◆おすすめコース
 神室山─火打岳─杢蔵山に至る南北縦走路(15時間ほど:中級向け)
※神室山など単発の登山で良ければ、日帰りでも十分だ。